Evil Dolce

* AriaLien Sub BLOG *

◆Evil Dolceは樹野花葉(キノハナハ)の過去の作品を更新しているブログです。
◆不思議要素のある恋愛物語をメインに綴っています。
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恋する贄

恋する贄 6話



けんちゃんは私の涙が自然に止まるまで話を再開しなかった。

魂の昂ぶりが鎮まるとともに涙も治まって来た頃、静かにけんちゃんは話を続けた。

「おまえが死に逝く寸前、強く願った事があった」
「…願い」
「『どうか愛おしいあの方と、来世でも繋がる事が出来る様に』『この世では叶う事の出来なかった幸せな未来をあの方と共に描く事の出来る世界で共に生きていける幸福を』」
「…」
「其のためにはおまえ自身を供物として捧げると自身に呪いをかけた」
「供、物?…呪い?」
「だから俺は其の望みを受理し、叶えた」
「……え」


私の前世の話から始まったこの会話。

私の前世は男性で、ある男の人と道ならぬ恋をして迫害を受けた。

其のために私は死ぬ事になって、死ぬ間際に願った事があって其れをけんちゃんが叶えたという事は──


「…けんちゃん…って一体」
「俺は悪魔だよ」
「!」

瞬間、私は体の奥底から得たいも知れない恐怖と嫌悪感が湧いて出て来た。

「あ…あっ…」
「思い出して来たか?」
「…や…ぃや…」

カタカタと震える体。

先刻の涙といい、どうして勝手に体が震えるのか解らない。

「今のおまえ自身には解らないだろうけど、心、魂ってやつが覚えているんだな」
「…」
「今際の際のおまえの強い念に引き寄せられた俺はな、面白い人間がいるなと思って傍観していた訳。悪魔にも色々いるんだけど俺の場合ちょっと特殊でね。詳しくは云わないけれど人間が絶望する際に発する思念を最高の馳走だと思い、其れを喰らって快感を得る生き物なんだよ」
「…」
「おまえは願った。次の世で愛おしい相手と再びめぐり逢う事、繋がる事、そして其の愛おしいもの以外とは決して交わらないという強い願い」
「…」
「其の願いが叶えられるなら自分自身を差し出すといった」
「…」
「だから俺はおまえの願いを叶える事と引き換えに、ひとつ絶望を与えた」
「…其れって」
「願いのひとつを俺が奪ってやった」
「!」
「おまえの崇高な魂を穢してやったのさ」
「──あっ」

ベッドに座っていた私は、いきなりけんちゃんに押し倒された。

「こうやって押し倒して、拷問で傷ついた体を俺が弄んだんだ」
「なっ」

けんちゃんに抑えつけられている両手首が軋む様に痛かった。

「くたくたになって死にそうな人間を甚振るのは俺の趣味じゃなかったけど、おまえは…おまえには何故かソソられたんだよなぁ」
「…」
「俺にいい様に蹂躙されて、愛おしいもの以外の、しかも人ならぬ異形のものに滅茶苦茶にされて絶望感に打ちひしがれたおまえの思念は最高のディナーだった」
「…」
「だけど其の絶望が…転生への供物だと知った時のおまえはあり得ないほどの幸福に満ちた思念を発した」
「…」
「絶望の中の幸福。そんなもの初めて見た。俺は其れにやられたんだよ。おまえという魂の持ち主の行く先を見届けたいと思うほどに──人間だっていうのに魅せられてしまったんだよ」
「…けんちゃん」

けんちゃんの名前を呟くと、けんちゃんはいつもの様に私の首筋に顔を埋めてチュッときつめに吸った。

「んっ」
「羽衣、俺はおまえの願いを叶えた」
「…」
「この世に転生させ、女として生まれ変わらせ、そしておまえの愛おしいものにも逢わせてやった」
「───え」

けんちゃんの其の言葉を受けて、私は急に何かが頭の中で弾ける気がした。

「ま、まさか…」
「おまえの愛おしいもの──この世では古城利久と名乗っている男だ」
「!」


私はあまりにも多くの事を忘れていて

そして多くの事を引きずってこの世に生きているのだと初めて知ったのだった。

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恋する贄 7話



私の魂は悪魔によって穢されていた──


だけど其の穢れを受けても尚、輝ける未来のための代償だと思えば私は幸福感に満ちてしまっていたのだった。


「…」

チュンチュンと鳴く雀の囀(サエズ)りで目を覚ました。

とても長い夢を見た様な気がしたけれど、其の夢の内容は全く覚えてはいなかった。


「おはよう、羽衣」
「あ、おはようお父さん」

寝ぼけ眼でキッチンに向かうと、既にテーブルには二人分のお弁当が乗っていた。

「ごめんなさい、寝坊しちゃって」
「いいよ、今日は遅い出勤だから。時間に余裕があったから大丈夫」
「…よかった」

いつもは私が父の分のお弁当も作っていた。

質素倹約がモットーの父は外食を良しとせず、例え弁当箱いっぱいの白米だけのお弁当でも持って行った。

「たまには父さんの手作り弁当もいいだろう?」
「うん」

証券会社に勤める父は忙しい中でも娘との時間を持とうと必死だった。

短い時間でも私の話を中心に会話する事に一生懸命になっている。

そんな父だから年頃となった私も仕事人間の父を大して嫌悪する事なく、親子関係は順調だと思っている。

「そういえば昨日、眷くん来ていただろう」
「え…」

けんちゃんの名前が出た瞬間、ドキッとした。

「冷蔵庫の中に眷くん特製のチャーハンが入っていたからさ。昨日、二人で食事したのか?」
「あ、うん。けんちゃんの処もおばさんが夜勤でいないからって」
「看護師って職業も忙しいからな。まぁ、眷くんがしっかりしているから何も心配いらないかもしれないけど」
「…」

朝食を食べながらぼんやりと昨日の事を思い出す。

結局昨日あの後、けんちゃんは私に対してある程度前世での昔話をし終えてから『腹、減らないか』と急に云い出し、けんちゃんが作ったチャーハンをふたりで食べた。

そして何事もなかったように『ちゃんと戸締りして風呂入って寝ろよ』と云い残して帰って行った。


(話…中途半端だよ)

怒涛の前世話の中、私が最も驚いた事といえば前世の私が愛した人の生まれ変わりが古城くんだと云ったけんちゃんの言葉。

(悪魔に魂を穢されてまでも生まれ変わりたかった理由の人が…)

まさか古城くんだったとは──

「…」

私は何ともいえない気持ちでいっぱいになっていた。

其れに前世の話をする前に云っていたけんちゃんの言葉。

『羽衣…古城なんて止めて俺の女になれ』

『おまえは気が付いていなかったかも知れないけどな、俺はずっと…ずっと昔からお前の事が好きだったんだよ』

『おまえを苛める事で気を引こうとしていたガキみたいな男なんだよ、俺は』

(あの告白めいたものの真意はなんなんだろう)

けんちゃんは悪魔。

其れも人の魂を自由にどうにか出来るほどの能力を持った高等な悪魔だといった。

(聞きたい事、知りたい事が沢山あり過ぎるよ)

父との話半分に私の頭の中には、古城くんの事よりもけんちゃんの事の方が多く鎮座してしまって、失恋の痛手は何処かに行ってしまっていたのだった。

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恋する贄 8話



其の日の朝も何ら変わりのない登校風景が拡がっていた。

「羽衣」
「あっ…けん、ちゃん」

家が近所、といっても私とけんちゃんは特に待ち合せたりして学校に行っていた訳じゃなかった。

時間帯が合えば一緒になったし、一緒になれば其れなりに話しながら登校したりしていた。

「昨日、眠れたか?」
「…うん、一応。だけど変な夢…見た」
「へぇ、どんな」
「其れが、朝起きたら全然覚えていなかったんだけど…」
「…」
「何かとても大切な内容だったというのだけは解って…でも思い出せなくてちょっと気持ち悪い」
「そっか」

けんちゃんはあまり興味がなさそうに一通り私の話を訊いて、直ぐにいつもの様に私にちょっかいを出して来た。

「なっ、けんちゃん、こんなところで肩、組まないでよ」
「なんで、別にいいじゃん。おまえは俺のものだし」
「! 違うよ」

私の肩に回されたけんちゃんの腕はぴったり寄り添っていて私との間に隙間なく、体は密着した。

行き交う数名の生徒たちがチラチラと私とけんちゃんを見ては何かを囁き合っている。

「ははっ、噂しろしろ。羽衣と俺は付き合っているぞー」
「ちょっと、違う!違うよ、もう冗談は止め──」

一生懸命けんちゃんから体を放そうとしてあたふたしている私の視界に入ったものを認知した瞬間、私の体は動かなくなった。

(あっ…)

「…」

其れは古城くんだった。

遠目で一度チラッと私と視線が合うと、直ぐに其の目線は逸らされた。

そして何事もなかった様に足早に私たちの元から去って行ってしまった。

(古城…くん)

昨日、こっぴどくフラれた場面が思い出される。

其れと同時に急に体の芯から熱を帯びだして、心臓はドクンドクンと高鳴った。

「羽衣」
「あ…あっ…」

私は自分の意識とは関係なく、止め処なく流れてくる涙を止める事が出来なかった。

(古城くんは…私が前世で愛した人の生まれ変わり)

そう思うとどうしても感情の激しい揺さぶりに冷静ではいられなかった。


朝のそんな登校風景。

今朝のこんなやり取りからいつの間にか、強引に迫った黒幸眷蔵が厭がる奥山羽衣を泣かせた──という噂が流れる様になったのだった。




「本当腹立つ、黒幸の奴!」
「…清ちゃん」

噂を聞きつけ、親友の白沢 清子(シラサワ キヨコ)通称『清ちゃん』は憤慨していた。

1年生の時、同じクラスになってから仲良くなった友だちで、内気で消極的な私を何かと助けてくれる頼もしい存在だ。

お昼休みはいつも清ちゃんとお弁当を食べていて、其の時はもっぱら恋バナに花が咲くのだった。

「いくら幼馴染みだからって、羽衣をいい様にするなっていうの」
「あはは、けんちゃんは昔からあんなだから…今更って感じも」
「もう、羽衣がそんなだから黒幸が図に乗るのよ!」
「…」

清ちゃんは何かと私にちょっかいを出してくるけんちゃんの存在を疎ましく思っている処があった。

其の半面で

「ところで、古城くんとはどうなの?告白とか考えないの?」
「! あ、そ、其の…ま、まだ勇気、が…」
「そっか…まぁ羽衣の場合、告白なんて一世一代の事、相当頑張らなきゃ出来ないよね」
「…」
「でも絶対大丈夫だよ!古城くんも羽衣の事、気にしていると思うし」
「そう、かなぁ…」

清ちゃんは私が古城くんの事を好きという事を知っているし、応援してくれている。

だけど今回、私が古城くんに告白をして断られた事は知らない。

(ごめんね、清ちゃん…もう少し、気持ちの整理が出来たら絶対話すから)

親友に隠し事をしているという後ろめたい気持ちも、私を陰鬱にさせる原因のひとつになっていた。

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恋する贄 9話



「よう、おまえ、羽衣の告白断ったんだな」
「…」


午後からの初っ端の授業が体育という時間割はおかしいだろうとずっと思っていた。

喰ったら寝る──という習性の俺には常々辛い組み合わせだった。


「おぃ、おまえ──古城、俺が話しかけているんだぜ、ちゃんと受け答えしろ」
「…僕には君と話す事はない」
「…」

着替えのための更衣室に今は他の人間はいない。

他愛のない術をかけて他の人間が寄り付かない様にしているからだ。

其の事を特におかしいとも思わずに、古城は黙々と着替えをしていた。

「なんで羽衣の告白を断った」
「…」
「『女と付き合うとか…無理だから』って断り方していたな」
「…」

俺の其の言葉を訊いて一瞬俺の方を見た。

しかし直ぐに視線は逸らされた。

「なんでおまえがそんな事を知っているんだ、と云いたそうな顔だな」
「…」
「面白そうだったから覗いていたんだよ。知っているだろう?羽衣は俺の玩具だからさ、玩具がどんな行動を取るのか興味本位で一部始終見ていたんだ」
「…悪趣味だ」
「ふっ、徐々に話に乗って来たか?話せよ、何か云いたい事があるんだろう」
「…」
「『女と付き合うとか…無理だから』ってさ、どういう意味で云ったんだ」
「…」
「何も知らない奴が聞いたら、特に違和感を持つ断り文句じゃないとは思うが…前のおまえを知っている俺にはピンと来たぜ」
「…前の…僕?」
「おまえ、男が好きなんだろう」
「!」

瞬間、能面の様に表情のなかった古城には戸惑い、驚き、衝撃といった言葉が形容される表情が浮かんだ。

「おっ、やっぱりそうか。やだなぁ、俺、ソッチの趣味はないんだけど」
「君なんかに其の気になるか!」

先刻までボソボソと喋っていた奴が急にハッキリと自己主張をした応えをし出した。

「ふっ、やっぱりおまえ──残っているんだな」
「…何が」
「前世の記憶」
「!」
「いや──ハッキリとは残っていない。おまえ…ひょっとしておまえも羽衣と同じか?」
「…奥山さんが…なんだって」
「前のおまえも羽衣と同じ様に誰かと取引をしたのか」
「!」
「ビンゴ!やっぱりそうか」
「…君は…一体」

コロコロと表情が変わるのが面白かった。

だって今までのこいつときたら笑った処どころか、驚いた処、焦った処、おおよそ人間臭い表情の欠片さえ見えなかったのだから。

俺は思った。

(何故羽衣はこんな男を愛しているのか)

実に面白味のない男だ。

「そうか、そういう事なら話は早いじゃないか!俺か?俺が何者かって、知りたいのか」
「…」
「俺は悪魔だよ」
「! あ、悪魔?!」
「前のおまえなら身近にあった存在だろう?そんなに驚くなよ」
「…」


(羽衣…)

俺は確信したよ。


──この男は、おまえに相応しくはない


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恋する贄 10話



この記憶がいつからあるのかは解らなかった。

気が付けば、其の執念みたいなものが凝り固まって常に僕の心の中を占めていた。


あの時、僕はあるものと取引をした。

来世というものがあるのなら、僕は今度こそ其の時代で愛おしいあの子を幸せにしたいと。

其の願いを叶えるために受ける罰なら甘んじて受けると誓った。

神に仕える身でありながら、神に背く行為に耽った其の罪は大きく、万死に値する程のものだった。

だからこそ、この世において危険分子である我が身は葬らなくてはならない。

自分にどれだけの価値があるかは解らないが、ただ、其の契約を甘んじて受ける事にした。


『あなたが抱いた恐れ多い行為を神は裁きはしません』
『…』
『ただし、今のあなたの其の心根が来世においても続くものなのかどうか、其れは未来永劫に渡ってあり続けるものなのか、神はお知りになりたいと仰っています』
『…』
『純粋な愛の形を見届けたいと、そう仰っているのです』
『…』
『真の姿を見せてもらう──其のための枷をあなたには与えましょう』
『…』
『よき時代に生まれ変わります様に…』


探すのだ…


あの子を


愛おしい僕のあの子を──






「付き合うとか…無理だから」
「あたしじゃ…ダメって事ですか」
「うん」
「わぁぁぁぁぁ、酷いぃぃぃ~」
「…」

年頃になって、やたら女の子から告白される事が多かった。

其れは精神を鍛える目的で始めた剣道で頭角を現すと比例して多くなった。

見た目で近づく薄っぺらい愛情のものが多いのは昔も今も変わらない。

だけど女の子という事だけで僕には論外だった。

(あの子は…女の子じゃない)

だからといって大ぴらに男が好きですと云える訳がないし、知り合う男に特別心惹かれた事もなかった。

(僕はあの子以外を好きになってはいけないし…なれないんだ)

其れが今の己に与えられた枷だった。

人を好きになれない。

其れは他人は勿論、親にも抱けない感情だった。

意味は違えど、人に好意を持つ事が出来ないというのは辛いものだった。

人に親切に出来ないから敵を作るし、弊害も出てくる。

其れはこの先、長く生きて行く毎に顕著に表れて行くのだろうと思う。

(人を…愛したい)

其れが出来ないと解っていても、心からの欲求が日々強くなって行く。


そんな欲に足掻く日々を過ごし、鬱々としている頃、僕は【彼女】に出逢ったんだ。


kaben
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