Evil Dolce

* AriaLien Sub BLOG *

◆Evil Dolceは樹野花葉(キノハナハ)の過去の作品を更新しているブログです。
◆不思議要素のある恋愛物語をメインに綴っています。
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妖精奇譚

妖精奇譚 6話



 キーンコーンカーンコーン


6時限目の古典の自習が終わってみんな早々に帰り支度をしていた。

「…」

チラッと見た久住くんの席はもう空っぽだった。

「…はぁ」

またか、という気持ちがあった。

いつも久住くんは終業のチャイムが鳴ると同時に教室を出ていた。

今日は担任が休みだからSHRはないけれど、いつもは授業終了後にSHRがあった。

だけど久住くんはいつもSHRが始まる前には教室を出て行ってしまう。

SHRに参加しない久住くんを最初は先生も何かと云っていたけれど、いつの間にか早々に教室を出て行く事が暗黙の了解みたいな感じになってしまっていた。


「由真、今日帰りどっか寄って行かない?」
「あっごめん、私用事があるから先に帰るね!」
「そう…残念」

私は今日一日少し考えるところがあって、今、其れを実行したいとずっと思っていた。

みちるの誘いを断った私は早々に教室を後にした。




人混みをかき分け目的の人を探す。

まだ多分見える範囲にいるはず。

そう思って校門から出て辺りを見渡し慎重に目を凝らす。

(あっ)

手がかりを見つけた私は一目散に駆け出したのだった。



私が初めて久住 緑(クズミ リョク)くんと出逢ったのは高校3年の春。

つまり今年の春。

約二ヶ月前の事だった。

帰国子女の私は初めて日本の高校に入学する事に一抹の不安があった。

緊張のあまり私は物凄い早い時間に家を出て学校に向かった。

だけど一度しか、しかも車でしか行った事のなかった学校までの道のりは中々複雑で、案の定私は道に迷ってしまったのだ。

途方に暮れていた私は其の時、眩い光を見つけた。

大きな公園の緑深いベンチに座っている男の子から発せられていた眩い光。

私は其の光に吸い込まれる様に近寄って行った。

男の子が私の姿を捉えてジッと見た。

其の男の子の瞳を見た瞬間


私は彼に恋をした。


(其の時の記憶は曖昧なんだけどね)


ただ男の子が私の行く高校の制服を着ていたから、道に迷っているという話をして始終無言の彼の行く方向を黙ってついて行って無事に学校に着けたという事だけは覚えていた。

そんな彼と偶然にも同じクラスになれて感激した。

以来何かと彼に話しかける様になったのだけれど、今までに私は彼の声を聞いた事が…話した事がなかったのだった。

(其れはどうしてなんだろう、とずっと思っていたけれど)

今日、みちるから訊いた話で何となく解った気がした。

(久住くん、あなたは私と同じ匂いがするんだ)


「久住くん!」

私は眩い光を放っている久住くんの元に駆け寄った。

私を見て一瞬、ほんの少しだけ目を見開いた気がしたけれど、やっぱり相変わらず無口、無関心な反応だった。

「久住くん、あの…」
「…」

私は何とか久住くんと話す取っ掛かりが欲しくて言葉を一生懸命探していた。

ただ久住くんに追いつきたいという気持ちのまま突っ走って来たから、云いたい事がこの瞬間フッと頭から消えていたのだ。

久住くんはそんな私に構う事なくスタスタと歩いて行く。

「あっ!待って、くず──」

久住くんを引き留めようとして私は咄嗟に久住くんの腕をギュッと掴んでしまった。


其の瞬間


バシィィィ!!

「きゃっ!」
「うっ」

物凄い衝撃が私たちの間に走った。

其れはとても強い静電気を受けたみたいな感覚。

「…」
「…」

私と久住くんはお互い見つめ合った。


(これって…やっぱり…)


この瞬間私はある事を確信したのだった。

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妖精奇譚 7話



「あっ」

だけど久住くんはやっぱり表情を変えずに、再び歩き出してしまった。

私は久住くんを引き留めるために今度は久住くんの手をギュッと握った。

バチン!

「わっ」
「っ!」

また激しい電気が私たちの間に走った。

「…」

この時になって初めて久住くんは私に何か云いたそうな顔を見せたのだった。




私と久住くんは春に初めて逢った公園に来ていた。

久住くんを初めて見た時に座っていたあのベンチに、少し距離を置いてふたりで座った。

「…」
「あの…久住くん」
「──んで」
「え」
「なんで…怖がらないの」
「!」

久住くんが初めて口を開いた。

(声を…)

其の澄んだ声を初めて聞いた。

瞬間

「えっ」
「う…うっ…う…」

私は情けない事に泣き出してしまった。

「ちょ、ちょっと、あの」
「ふぇ…ご、ごめんなさい…なんだか…嬉しくて」
「…」
「ずっと…ずっと久住くんの声、聞きたいって思っていたから…だから今、やっと──って思ったら…」
「…星野さん」
「えっ!わ、私の名前、知ってるの?!」
「…知ってる。クラスメイトだから…みんなの名前だって」
「久住くん…」

あぁ、彼はやっぱりすごく心が綺麗な人だって思った。

初めて声を聞いて…

ほんの少し喋っただけで彼の澄んだ雰囲気に呑まれそうになる。

「久住くんは、本当はこんなにも優しくて柔らかくて素敵な男の子だったんだね」
「…」
「やっぱり私の…好きになった人だ」
「え」

決して雰囲気に呑まれたからじゃない。

「…」

私はずっとずっと云いたかったんだ。

「久住くん…好きです」
「…」

一層大きく目を見開いて私を凝視する久住くんは、やがてフッと私から視線を外した。

「…ごめん」
「え」
「気持ちは…嬉しいけど…僕…」
「嬉しいけど…嬉しいけど何故ごめんなの?」

やっと云えた気持ち。

少しずつ芽生えて大きく育てて来たこの恋心を容易く諦める事なんて出来ない私は、久住くんにピッタリと寄り添って其の綺麗な掌を握った。

バシッ!!

「きゃっ」
「痛っ!」

また電気が走った。

「…久住くん、もしかしてこの…これがあるから人と接触出来なかった?」
「……」
「う、自惚れかも知れないけれど…私の事…好きだけど…これがあるから付き合えないとかって考えた?」
「…」

表情を硬くしながらも久住くんはちいさくコクンと首を縦に振った。

「久住くん…」

(首を縦に振ったという事は…肯定って意味だよね?)

久住くんも私の事が好きだって云ってくれたんだよね?!

(嬉しい!!)

だったら尚更私は久住くんから離れちゃいけないと思った。


ニヤけて崩れそうな表情を何とかしている私を見たり見なかったりしつつ久住くんは静かに話し始めた。

「僕が…神隠しにあった事があるっていう話、知っている?」
「…ごめんなさい、友だちから今日訊いて…知ったの」
「そうか──其の神隠しにあった後から…何故か女性に限って触られると今みたいな現象が起きる様になったんだ」
「女性だけに?」
「あと僕の悪口や厭な事を云う人には何故か災いが起きる様になって…だから僕は…必要以上に人とは関わらない様にして来た」
「久住…くん」

俯きながらボロボロ涙を流す久住くんの姿を見ていたら私は堪らなくなった。

こんなにも人の事を思いやって、人を災いから護るために自分の殻に閉じこもった彼の事が一層愛おしくなった。

だから私はどうしても久住くんを救いたいと思った。


「久住くん、其れはね神隠しじゃないよ」
「──え」
「久住くんは…妖精に会ったんだよ」
「! よ、妖精…?」

私は久住くんにかけられた呪いを解くためにとても大きな決断をしたのだった。

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妖精奇譚 8話



私は自宅マンションに久住くんを招いた。

「お、お邪魔…します」
「あ、誰もいないからかしこまらないで?」
「…」

自室に久住くんを案内して、私はキッチンでお茶の用意をして部屋に入った。

「何か面白いものあった?」

本棚の前に立って其処をジッと見ていた久住くんに声を掛けた。

「妖精の…本が沢山あるね」
「あぁ…うん、そうなの」

テーブルにカップを置きながら相槌を打つ。

久住くんが私の向かい側に座ったのを見届けてから私は話を始めた。

「これから話す事、きっとすごく変な事だと思う」
「…」
「信じられないかも知れないけれど…私にとっては真実なの。だから最後まで訊いて欲しい」
「…うん、解った」
「…」

久住くんは少し緊張した顔をしたけれど真摯に私と向き合ってくれる感じが伝わって来て、私には其れすら好ましく思ったのだった。


「私の父はアイルランドにおける様々な伝承を研究している学者なの。元々超常現象や未知の世界に関する事を学ぶのが好きだった人で好きが高じてアイルランドの大学に行くために高校卒業後単身日本を飛び出したの。大学を卒業してからもアイルランドに居続けて本格的に学者として活動する様になって…其処で私の母と出逢って私が産まれたの」
「じゃあ星野さんはアイルランドと日本のハーフって事なの?」
「…其れがね…ちょっと違うの」
「え」
「…」

やっぱりいざ口に出して云うには勇気がいる。

「云い辛いなら無理して云わなくていいよ?」
「ううん、大丈夫。ただ今まで誰かに話した事がなかった事だからちょっと緊張してて…」
「うん」
「…あの…私の母っていうのが…其の…妖精、らしいの」
「───え」

(あぁ、やっぱり驚いてる!)

そりゃそうだよね、おかしな話だよね!

だけど…

だけどちゃんと云わなくっちゃ。

云って納得してもらわないと…

(久住くんを救えない!)

気持ちを奮い起こして私は話を続けた。


「アイルランドで妖精研究をしていた父の元に突然綺麗な女の人が現れてね、其の…瞬く間にふたりは恋に落ちて愛し合う様になったの」
「…」
「やがて女の人は身ごもって、其れで父は結婚しようと云ったのだけれど女の人は私は妖精だから結婚は出来ない、と断ったの」
「…」
「其れっきり女の人は姿を消してしまった。だけどある日父の家の前に赤ん坊だった私が置かれていたの」
「え」
「私と一緒にあった手紙には、父と別れる際、父の記憶を消さなかった罰…とかで子どもを自分で育てる事を赦されなかったとか何とかで…妖精である母の種族的な掟があったみたいなの」
「…掟」
「其れで私は父の手で育てられて、幼い時から母が妖精だっていう話を訊いて育って来たの」
「其れ、素直に信じたの?」
「勿論。だってね、私…見えるんだ」
「え」
「人には見えないもの。不思議なもの、事、音。小さい時からキラキラしたものが見えていたの。おかしいなと思って父に訊いてみたら、どうやら私にはフェアリードクターとしての要素があるんだと云われた」
「フェアリードクター?」
「妖精を見たり、妖精の呪いを解く事が出来る人」
「!」

久住くんの驚いた顔が印象的だった。

こんなにもくるくると表情が変わるところなんて見た事が無かったからただただ嬉しいという気持ちが胸の中に充満していた。

「父の仕事の関係で今年日本に来て…そして久住くんに出逢った」
「…」
「初めて見た久住くんはとても眩しい光に包まれていて、なんて綺麗なんだろうと思って…其処で恋に落ちちゃったって事…なの」
「眩しい光って…そんなの僕には解らない」
「当然解らないよ。見える人にしか見えない。でね、私、其の眩しい光ってなんなのかなってずっと思っていたの。久住くん自身のオーラなのかな?とも思っていたんだけど、久住くんみたいに人との接触を極端に避けている現状であのオーラの放出はおかしいと思っていて…其れで今日、友だちから訊いた神隠しの話でピンと来たの」
「…」
「久住くんは神隠しじゃなくて妖精隠し、つまり妖精に攫われたって事なの」
「!」
「久住くんに纏わりついているのは其の時攫った妖精の強い情愛の念なの」
「…情愛?」
「きっとすごく久住くんの事を気に入って、好きで…だけどどうしても一緒にいられないっていう気持ち」
「…」
「だからね、其の妖精は久住くんを他の誰にも取られないための呪いをかけたの。其れが其の纏わりついている綺麗な光の帯の正体」
「…」
「女性と接触出来ない様に呪いを込めている光。だから久住くんに触ると先刻みたいな電気が走るんだと思う」
「そんな…じゃあ僕は一生──」


妖精には色んなタイプがいて、様々な形で人間を弄ぶ。

多分久住くんが出会った妖精は嫉妬深い一途な妖精だった。

気に入っていた人間でも最後には其の記憶を消して元の世界に帰さなければならない。

多分其れはどの妖精にとっても共通の掟だと思われる。

久住くんを攫った妖精は自分以外の女の子が久住くんに近寄る事を赦さないがためにずっと久住くんを見えない鎖で繋いで来たんだ。

(だけどそんな事赦されない)

フェアリードクターとしての血が、間違った愛し方をした妖精のせいで傷ついている人をなんとかしたい、という気持ちで溢れていた。

(しかも其れが私の好きな人だったら尚更だよ)


そんな状況で久住くんにかけられた呪いを解く手段はひとつしかなかった。

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妖精奇譚 9話



幼い頃から父に『由真はフェアリードクターとしての素質がある』と云われて来たから何となく妖精に関する知識を学ぶようになった。

アイルランドでは勿論、今の日本に至っては妖精なんて存在自体が幻の事の様に思われているからフェアリードクターの必要性ってないものだと思っていた。


「あ、あの…星野…さん」
「な、なぁに?」
「本当に…本当に…其の…」
「…」


ただ人とは違った景色を見られる、私だけに与えられた特典みたいなものを純粋に愉しんでいられればいいとずっとずっとそう思って来たのだ。


「どうしても…しなくちゃいけないの?」
「…うん」
「でも…僕」
「私とじゃ…厭?」
「そ、そんな事はない、決して!」
「…じゃあ」
「だけど…だけど…」
「私は久住くんを救いたい」
「!」
「久住くんだから…私は…」
「…」

(私は何が何でも久住くんを助けたい)


久住くんを助けるためには…

久住くんに纏わりついている光の膜を無理やりにでもこじ開けなくっちゃダメなんだ。


「うっ!」
「痛っ」

バチンバチンッと青白い火花が見えるようだった。

(きっとこれしきの電流の衝撃に耐えられないような好きじゃダメって事なんだよね?)

「く、久住くん…大、丈夫?」
「星野、さん…こそ」

肌蹴られた胸に沢山の赤い花を散らされながら、私は甘い官能と激しい痛みの狭間にいた。

「私は…大丈夫…なんだかこの電流に、慣れて来た…みたいで」
「確かに…其れは僕も…感じていた」


久住くんにかけられた妖精の膜を破るために私は久住くんとセックスをしようとしていた。

要するに久住くんに纏わりついている妖精の思念の膜に怯む事無く、久住くんと接触する事が出来ればきっとこの膜は破れると思ったのだ。


(…なんだろう…私、この妖精の気持ちが解る気がする)


いくら好きでも別れなくてはいけない。

狂おしいほどの思慕の気持ちを押し殺して愛おしい人を元の世界に帰した妖精の気持ち。

だけど愛おしい彼に他の女との幸せなんてもたらしたくない

彼を深く想うが故に彼を護る事をはき違えてしまった妖精。


(気持ちは解るけれど、其れを容認してはダメ!)


「あっ…ふぅ…」
「ん、ん…」

私の首筋から鎖骨にかけてを久住くんの熱い舌が這い回っている。

最初こそ有り得ないほどの衝撃が私たちを襲いキスすら出来ない状況だった。

だけど時間をかけ、少しずつ、ゆっくりと久住くんに愛撫されるとビリビリとした痛みが次第に甘やかな刺激に変わって行った。

「なんだろう…すごく…緩い電流が体中に流れて…其の刺激がかえって興奮する…」

久住くんの擦れた声が私の耳元で聞こえた。

「多分…中和されて来ているんだと…思う…あっ」

胸の頂を甘く噛まれ、其処に微弱な電流が加わる事によって有り得ないほどの快感が押し寄せた。

「はぁはぁ…あっ…あ…」
「星野さん…いい?」
「…」

大きく開かれた足の間に久住くんが入り込み、久住くん自身を私の熱く滴っている場所にあてがおうとしていた。

「本当に…いいの?」
「いい…いいに、決まってる…私は久住くんが好きだから…」
「星野さ」
「由真って…由真って呼んで?」
「…由真」
「あっ!」

甘い声で名前を呼ばれた瞬間、私の中に巨大な楔が打ち込まれた。

「あぁ、あっ、あっあっあっ!」
「くふぅ…んっ、あぁ…由真…由真ぁ」
「~~~っ」


其れが物凄い痛みでも


とてつもない衝撃でも


あの無関心な態度を取られていた時と比べたら其れはずっと我慢出来る痛みと衝撃だったのだ。


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妖精奇譚 10話(終)



激しく腰を振られ、痛みから快感に変わる瞬間

「あっ」
「!」

久住くんがズッと私の中から自身を引き抜いた。

そして直ぐにビュッビュッと私のお腹の上に濃い熱が吐き出された。

「はぁ…はぁはぁはぁはぁ…」
「…久住…くん」
「ご、ごめん…ゴム…してなかったから…」
「うん…」

其れは当然の事だった。

いきなり始まったセックスだったから当然避妊具があった訳じゃない。

だけど何故か久住くんに中に出してもらえなかった事がほんの少しだけ寂しいなと思ったのだった。

そんな事を思いながらも私は久住くんの変化に直ぐに気が付いた。

「あっ!」
「な、何?」
「…消えてる」
「え」
「久住くんに纏わりついていた光の帯…消えている」
「ほ、本当?!」

ほんの数分前まで見えていた眩い光の膜が全く見えなくなっていた。

「うん、何も見え── ! んっ」

いきなり久住くんが私にキスをして来たからビックリした。

ほんの少し強めに押し当てられた唇は直ぐに放されたけれど

「電気…走らない」
「ビリビリ…しないね」
「僕…僕…」
「もう大丈夫だよ、久住くん」

痛みを乗り越えての接触によって其れは破られた。

とても危うい賭けだったけれど、私の純潔と引き換えになんとか妖精の呪いを解く事が出来たようだった。

「由真、ありがとう」
「あっ」

再びキスされたために唇は塞がれ、言葉を発する事が出来なかった。

「んっ、んっ」
「あふぅ…あん…んっ」

お互いの舌が絡み合う様な濃厚なキスに、ジワジワと体が火照って来るのを感じた。

「あ…く、久住くん…また…」
「ん…もっと抱きたい。由真を今度こそちゃんと…じっくりと愛したい」
「あっ」

甘い熱を孕んだ私たちは空が暮れ、暗くなるまで睦み合っていたのだった──






久住くんと心を通わせ、初めて交わったあの日から瞬く間に月日は経った。

あの日以降、久住くんは人が変わったように社交的になり、彼本来の性格は周りの人たちをあっという間に友好的なものへと変えて行った。

私と久住くんは高3から、同じ大学で其々が専攻した学部に身を置いてからもずっと交際を続けた。

そしてつい半年前に結婚式を挙げて、現在私は妊娠三ヶ月の身重になっていた。


「じゃあ行って来るから。体、気を付けるんだよ」
「大丈夫よ、今日はずっと家にいるから」
「なるべく早めに帰って来るから──ん」
「ん」

いつもの様に行ってらっしゃいのキスをして久住くんは勤め先の図書館に出かけて行った。

本が好きだった久住くんは猛勉強の末、図書館司書の資格を取って念願の仕事に就いていた。

私は児童文学を専攻していた時からちょこちょこと雑誌に短編の話を書く様になっていて、其の縁で出版社からエッセイとかコラムといった小さな仕事を請け負う様になっていた。

そして最近気が付いたのだけれど、私のフェアリードクターとしての力は徐々に消えて行っている様な気がした。

依然見えていた風景が妊娠をきっかけに見えなくなって来ているのだ。

尤も絶対に必要な力だった訳じゃないから消えた処でどうにかなるという訳じゃないのだけれど…

(少しだけ寂しいなぁ)

そう思った瞬間

『其のオ腹ノ中の子、アたシニ頂戴』

「え」

何処からか女の子の声が聞こえて思わず辺りをきょろきょろ見渡した。

「…誰?誰かいるの」

私は何処にいるか解らない声の主に向かって話しかけた。

『あーア、モぅアタしノ姿モ見えナクなッタのカぁー残念ダネェ』
「…妖精?」
『そッ、妖精だヨー。ねェ、アんタノ腹ノ子、あタシに頂戴ヨ』
「! な、何を云っているの?そんなのダメに決まっているでしょう!」
『ナーンでヨォ、アたシはアんタにリョクを譲ッテあゲタのニぃー』
「!」

リョク…

(緑って…久住くんの事──?)

『そノ腹ノ子、アんタのフェアリードクターの力ヲ継イデるヨ。だカラあタシに頂戴』
「ダメ」
『なンデー!アんタにはリョクをアげタノにィィーあタシの大好キだッたリョクを…そレナノに腹ノ子まデ取ルなンて貪欲ナ女ダヨ!』
「絶対にあげない!緑もこの子も…私のものなんだから!!」

見えない相手に向かって有り得ないほどの罵声で私は叫んだ。

『ワァぁーこッワーい!アンた、半分人間ノクせニ妖精気質ノ強イ独占欲丸出シ女だァー』
「煩い!もう金輪際私の前に姿を見せないで!!」
『キゃハはハハハッ、見エてナイくセニぃーバッカみターい』
「…」

妖精の甲高い笑い声がいつまでも私の頭の中に響いていた。



──妖精は綺麗なだけじゃない


陰湿で執拗で傲慢で我侭


欲望を丸出しにした酷く厭らしい生物だ


「…」


そんな厭らしい妖精の血が私にも流れているのだと思うとゾッとして仕方がなかった──




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