Evil Dolce

* AriaLien Sub BLOG *

◆Evil Dolceは樹野花葉(キノハナハ)の過去の作品を更新しているブログです。
◆不思議要素のある恋愛物語をメインに綴っています。
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深淵の彼方から

深淵の彼方から 1話



 昔々。

其れは私が10歳頃の話。


ある夏の日、田舎にひとり住む祖父が亡くなったという事で私は両親に連れられ田舎の母の実家に帰省していた。

通夜や葬儀の準備で忙しくしていた両親に構ってもらえなかった私は田舎の風景に物珍しさを覚え散策という名の遊びに夢中になった。 

自然の少ない都会に住んでいた私にとって其処は冒険心をくすぐられるもので満ち溢れていた。


祖父の家からそう遠くない丘の上に鬱蒼と茂った森があって、其の奥深くでキラキラ光るものを見つけた。

なんの躊躇いもなく光の元へ行くと其処には小さな池があった。


「キラキラしてる」

木々の間から差し込む日差しを受けて其の池はキラキラと乱反射していた。

夏の暑さから喉が渇いていた私は其の池に近づき覗き込む。

澄んだ透明な水は鏡の様に覗き込む私を映し出していた。

思わずゴクッと喉が鳴った。

そして私は誘われるまま其の池の水を掌ですくいゴクゴクと飲み干した。

「…美味しい」

其の水はほんのりと甘くとても美味しかった。

思わず二度三度と汲み上げ心行くまで飲み干してしまった。


「──呑んだのか」
「!」

いきなり後ろから聞こえた声にビクッとした。

怖々と振り向くと其処には白い着物を着た男の人が立っていた。

「其の池の水を呑んだのか」
「…」
「呑んだのかと訊いている」
「あ…あの…ごめんなさい」

私は其の男の人の只ならぬ雰囲気に呑まれ一瞬体が硬直してしまっていた。

なんとか声を振り絞り言葉を吐いた。

「呑んだのだな」
「…呑みました」
「……」

(ど、どうしよう…呑んじゃいけない水だったのかな)

私は怒られると思い身をこれでもかという位に縮込ませた。

暫く俯いていたけれど何も云って来ない事を不思議に思い顔を上げると、私のすぐ目の前まで男の人が寄っていて屈んで向けられた其の視線は私と同じ高さになっていた。

「!」
「おまえは何処の子だ」
「あ…あっ…」
「何やらよく知った匂いがするが」
「あ、あのっ」

男の人がクンクンと私の匂いを嗅いでいる様な仕草に驚いた。

と同時にどうしてだか体の中がカァと熱くなって来たのが解った。

「──おまえ…ひょっとして野宮の子どもか?」
「の…のみや?」
「あぁ、この森を抜け丘を下った処にある茅葺屋根の家の」
「あっ、おじいちゃんの家」
「おじいちゃん?──という事は…三朗の孫か」
「さぶろう…おじいちゃんの名前」
「…」

祖父の名前を訊いた瞬間、其の男の人は何か合点がいった様な表情を浮かべ私から少し距離を取った。

「…あの」
「なるほどな、野宮の血筋か。ならば納得だ」
「…」
「何の因果か知らぬが…このタイミングでこの様な機会を得ようとは」
「…」

(何、云ってるんだろう)

男の人は呟く様にブツブツと訳の解らない言葉を云っていた。

私は早くこの場から逃げ出したい気持ちから少しずつ男の人から距離を取った。

だけど

「待て」
「!」

ジリジリと後退った私の姿を目敏く捉え、男の人は静かに云った。

「話はまだ終わっておらん」
「…」


この日私は夢を見ていたんだと思った。


だってこんな事、普通にある事じゃないと思っていたから──

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深淵の彼方から 2話



「えっ!さっちゃん、しちゃったの?!」
「しーっ!声、大きいっ」
「っ」

慌てて両手で口を塞ぐ。

そして何故かじわじわと顔が赤くなるのが解った。

「もう、瑞生ってば…そんなに驚く事じゃないでしょ?」
「だ、だって…私たちまだ中2だよ?は、早くない?」
「早くないよ。求められた時が其の時でしょ」
「…」

(そう…なのかなぁ)

親友の咲恵ちゃんがえっちしたという報告を訊いてただただ驚くばかりの私。

「まぁ瑞生は奥手だからね。彼氏もいないし」
「…別に彼氏なんて要らないし」
「またまたぁ~本当は欲しいんでしょ?雅紀の友だち紹介するって云ってるのになんで未だに断る訳?」
「いや…本当要らないから」

(要らない──というか…作れないんだよね)


咲恵ちゃんと彼氏の雅紀くんは小学生の時から付き合っていた。

勿論小学生の時はただ仲のいい男友だちって枠を超えていなかったようだったけれど、其の関係は中学生になってからガラッと変わった様に思える。

「ねぇ、瑞生はどんな男子が好みなの?」
「え」
「なんかそういうの訊いていなかったなぁと思ってさ。タイプに近い友だち探してもらうからさ」
「いや…本当に、私」
「瑞生も彼氏作って、其れでダブルデートしようよ。きっと愉しいよー」
「…」

咲恵ちゃんの軽快なトークに圧されどうしたものかなと思っているとタイミングよく予鈴が鳴った。

私は(助かった)と思いながら次の授業の準備をするために席に着席した。



「次のテストには此処、必ず出るからな。とりあえず公式だけでもバッチリ覚えておけ」

「…」

授業中、ぼんやり考える事といえば先ほどの咲恵ちゃんの報告だった。

『昨日、雅紀としちゃった』

咲恵ちゃんが雅紀くんとキスをしたと報告された時もビックリしたけれど…

(えっち…しちゃったんだ)

近しい友だちのそういう話を訊くとドキドキしてしまって仕方がない。

(でもでも…14歳でっていうのは早過ぎでしょう!)

私がそう思う事は多分当たり前の事なんだと思うのだけれど、どうも友だちの輪に加わってみんなの話を訊くと私の其の考えは古臭いんだと思い知らされる。

(私以外の友だち…殆どキスしてるって云ってた)

中には彼氏じゃない、男友だちともノリでしちゃったという子がいる有様。

(す、好きな人じゃないのにキスって出来るの?!)

私は出来ない!

絶対出来ない!

そんな事を考えたらまたカァと顔が赤くなったのが解った。

(あぁ…もう、なんだか生き辛い…)

はぁとついたため息は静かな教室にフッと消えて行った。






「瑞生、今度の土日お祖父ちゃんのお墓参りに行くわよ」
「あ、う、うん」
「何も予定なかったわよね?」
「ないよ」
「じゃあ準備しておいてね」
「解った」

夏休みに入って一週間。

母から田舎に帰る事を訊かされドキッとした。

(お祖父ちゃんのお墓参り…か)

4年前に亡くなった私の祖父、野宮三郎は母の父親だ。

代々野宮家は当たり一面の広大な土地を管理して来た資産家だったそうだ。

野宮の家の歴史について少し触れた事のある私は少し複雑な気持ちと、そして

(…御池様に逢うのも一年振り、か)

そんな事を思って、またポッと顔が赤くなったような気がしたのだった。


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深淵の彼方から 3話



一年振りの田舎だった。

4年前に亡くなった祖父のお墓参りを済ませ、私たち家族は生前祖父が住んでいた家にやって来ていた。

「兄さん、久し振り」
「おぅ、元気だったか?」

住む人がいなくなった祖父の家は同じ町内に住む母の兄、つまり私にとっては伯父さんが管理していた。

「おっ、瑞生、大きくなったな」
「伯父さん、一年でそんなに変わらないでしょう?」
「いやいや、思春期の子どもは成長が著しい」
「著しいって…らしいなぁ」

大学卒のインテリな叔父との会話に思わず苦笑してしまう。

「瑞生ちゃん」
「あ」

後ろから声を掛けられ振り向くと伯父さんの息子の辰朗さんが立っていた。

「久しぶりだね、元気だった?」
「元気だよ。辰朗さんは?」
「見ての通り。相変わらずだよ」

にこにこしながら辰朗(タツロウ)さんは私の頭を撫でた。

8歳年上で大学生の辰朗さんは私のたったひとりのいとこだった。

ひとりっ子の私にとってはいとこというよりお兄さんという感じの存在だった。

「兄さん、前来た時に修理しなくちゃいけないって云っていた処、業者に見てもらった?」
「あぁ、其れでな当初思っていたよりも状態が悪いと云ってな──」

母は伯父と家の事について話し始めた。

父と辰朗さんは家の周りに蔓延っている雑草の手入れをし始め、何となく私は手持無沙汰になってしまった。

(草むしり、手伝った方がいいかな)

何となくそう思ったけれど、急に体が急かす様に動き始めた。

(あっ)

其れは四年前から私にとっては当たり前にある衝動だった。

(呼ばれてる、行かなきゃ)

そう思うと自然と私の脚は祖父の家を出て丘をグングンと登って行ったのだった。






「はぁはぁ…」

照りつける太陽の元を小走りに進んで来た。

やっと見慣れた池に辿り着くと、直ぐ淵にある大きな岩に腰を下ろしている人が目に入る。

「おぉ、来たな」
「…御池様」

私は呟く様に其の人の名前を呼ぶ。

四年前と姿形は変わらず、相変わらず艶めかしい顔をして私を見つめた。

「ミズキ、此方へ」

チョイチョイと手招きをされ私はおずおずと御池様の傍に寄って行った。

「あっ」

御池様の前まで行くと延ばされた細く白い腕から続く掌に私は囚われ、其のまま御池様の体にすっぽりと収まった。

「ふふっ、久しいな」
「は、はい」
「ん……よしよし、ちゃんと大きくなっているな」
「!」

いきなり御池様の掌が私の胸をモミモミと揉み解した。

「体つきも丸みを帯びて来たな」
「あ…っ、や、やぁ」

御池様に体中をやわやわと撫でられくすぐったい様なもどかしい様な気持ちになる。

「厭ではないだろう?これしきの事で」
「~~~」

確かに御池様の云う通り厭、ではなかった。

これくらいの事はもう何度もされて来たから。


ただただ純粋に恥ずかしくて…


いつもの私じゃなくなりそうで怖かったのだった。

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深淵の彼方から 4話



話は四年前に遡る──


祖父が亡くなり、其の葬儀のために母の実家である田舎に帰省した私は、祖父の家近くにある森の中で綺麗な池を見つけ其処でこの御池(オイケ)様と出逢った。

御池様は其の池の神様だった。

御池様のルーツは古く、此処等一帯の村で祭られていた雨を司る龍神様からの流れを汲んだものだという。

古来より祀られている龍神様と村人とを繋ぐ役目をしていたのが野宮という祀り事の一切を取りまとめる家の巫女だった。

龍神様を鎮めるための巫女を捧げる事で野宮家は繁栄を極め、村も日照りや豪雨に悩まされる事なく繁栄して行った。

そんな永きに渡る龍神様と代々の巫女たちの関係の中で、あるひとりの巫女が龍神様と恋仲になり其の御子を孕み産み落とした。

龍神様と巫女との間に産まれた子は半分が神様だったけれど完全な神様ではない──という事で龍神様を祀る社近くの池の主となり其処を住処として暮らし始めた。

其の池の神様の子孫が今私の目の前にいる御池様、という事だった。


「まぁ、神としての力は薄まって来ておるが、其れでも完全な人の子としては生きてはいないのだよ」
「…はぁ」

当時10歳だった私は語られる話を嘘とも本当とも思えず、ただただ話される内容をふんふんと訊くだけだった。

「其れで話を戻すが──おまえは池の水を呑んだのだな」
「!」

そう。

私は池の水を呑んだ事について尋問させられていた。

「吞んだな」
「……はい」
「其れで体はなんともないのか」
「え、体?……と、特には」
「──そうか」

御池様の問い掛けに素直に答えると何故か御池様はニッと微笑んだ。

「そうかそうか。其れは善き事かな」
「?」
「おまえは野宮の家の者だと云ったな」
「…はい」
「だから、なのだな。普通の人間が池の水を呑んだら蛇に化身していた処だ」
「えっ!!」

(嘘っ!な、何其の怖い設定)

酷く驚いた私を御池様は大して気に掛ける事もなく淡々と話を続けた。

「先ほど話したように俺と野宮の間には特別な繋がりがある。其れは子どものおまえにも解るだろう?」
「あ…えっと…野宮の家の巫女様と龍神様が結婚して──」
「結婚はしておらんかったがな。単に子どもを孕んだだけだ」
「はらんだ?」

御池様の言葉に解らない言葉があって首を傾げると「まぁ其れはおいといて」と咳払いをひとつして話は続けられた。

「つまりは俺の血は野宮の血も混じっている。故に子を成すには野宮の血を持つ女子の器が必要だという事だ」
「おなご?うつわ?」
「子どものおまえには難しいだろうが覚えておくがいい。おまえが呑んだこの池の水は俺其のものだ」
「え」
「長年この池に住まい、気や霊力、ありとあらゆる体液を含んだ池の水はいわば俺其のもの。其の特別な池の水はただの人間には毒にしかならぬ。だが野宮の血筋の女子は水を含んだ体が成熟した暁には俺の子を孕む事が出来る」
「はらむ?」

また解らない言葉が出て首を傾げる。

「今はまだ其の時期ではないから其れはおまえの胎内で静かに眠っている。だが体が成長し熟する度に其れは目を覚まし産まれるための準備を始める」
「…」
「長い年月をかけ俺の子を孕める状態になった時、おまえは俺の全てを其の身に受け入れる事になるのだ」
「…」

其れはまるで遠いお伽話の様な絵空事だった。

(私…神様の子を産む、の?)

嘘みたいな話だった。

そんな物語みたいな事があるのかという不思議な気持ちになった。

だけど

「!」
「おまえ、名を何という」

頭に御池様の掌が当てられ優しく撫でられた。

「…瑞生」
「ミズキか。善い名だ──俺の名は   」
「え?何」
「聞こえぬか。そうか、其れはそうだな」
「…」
「神の名は其れを心より愛し敬愛する者にしか聞こえぬ。何故なら神は真名(マナ)を知られると其の者に縛られ逆らえなくなるゆえ」
「?…えっと」
「解らなくていい。今はまだ──子どものおまえはまだ何も」
「あ」

御池様の掌がそっと私の頬に触れた。

「いいか、ミズキ。成熟するまで精々人としての生を謳歌するといい。俺に囚われたらもう──おまえの全ては俺のものになるのだから」
「…」


其の御池様の言葉は10歳の私にはチンプンカンプンだった。

だけど意味は解らなくても何故かひと言ひと言が鮮明に私の頭の中に刻み込まれていたのだった。


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深淵の彼方から 5話



「ミズキ、学校は愉しいか」
「ん…愉しいは愉しいけど…」
「けど、なんだ」

現在時間。

御池さまの膝の上に乗せられ、私の体を優し気に撫でる其のくすぐったさに悶えながら私はこの一年の間にあった学校の事や家の事を御池様に話した。

「友だちがね…其の…どんどん大人になってしまって…」
「大人になって?」
「其の…えぇっと…」

御池様に何と云えばいいのか言葉に詰まる。

そんな私のモジモジした様子で勘付いたのか御池様は事も無げに「あぁ、セックスをしたという事か」と云った。

「! な、なななっ」
「ん、違ったか?今はそうは云わぬのか」
「や…ち、違ってはいない…けど、なんで御池様がそんな言葉知っているの」
「俺だって其れ位は知っておる。なにせ人間として生きていた時代があるのだからな。人の世界との繋がりがある故、其の時代時代の情報ぐらい知っている」
「………は」

(今、なんて)

御池様の口から出た言葉にきょとんとする。

「あぁ、まだこの話をするにはミズキは幼いと思っていたから話さなんだが、実は俺は産まれてから二十歳前後くらいまで人間として村で暮らしていた事があったのだ」
「えっ!ど、どういう事?!」
「この池に神として住まう事が出来るのは主の御池様ただひとりだ。先代の御池様、つまり俺の父が生きている間はこの池には父が住まい、人間である母と産まれたばかりの俺は母の実家である野宮の家で暮らしていたのだ」
「えっ、御池様のお母さんって…野宮の人だったの?」
「なんだ、最初に話したではないか。池の神は野宮の血筋の女子からしか産まれぬと」
「あ…」

(そういえばそんな事を…)

「今から何代前の娘だったか…三朗の曾祖母の…姉妹の片割れだったか…よく覚えてはおらぬが兎に角俺は母と野宮の家で人間として暮らしていた」
「…御池様が人間として」

嘘みたいな話に茫然とする。

「父が御池様としての寿命を全うし池の主の座が空いた時に選択を迫れる。このまま人間として生きるか御池様になるのかという」
「選択…」
「そういう理なのだ。この池の主から産まれるという事は。そういった境遇で産まれる者だけが迫られる選択だ」
「御池様はどうして御池様を選んだの?人間として生きられる道だってあったんでしょ?」
「まぁな。ただ俺は選択の時、このままこの池を枯らす事は出来ないと思った──ただ其れだけの事だ」
「枯れる?池が?」
「あぁ。池の主がいなくなるという事は池が穢れ枯渇する事を意味する。即ち今までこの池によって生き永らえて来たこの森に住まう生き物たちは命を落とすという事になる」
「…」
「人間にとっては毒でしかないこの池の水は小動物や植物、蛇に化身した元人間たちなど森の住民にとっては命を潤す池でもあるのだ」
「…」

(池の水を呑んだら蛇になるっていうの、本当の事だって今サラッと流した!)

少しだけゾッとしたけれど、語る御池様の顔が今まで見た事のない様な寂し気なものに見えて思わず御池様の着物の合わせをギュッと握った。

「──怖いか?この話」
「…少し、だけ。でも…御池様の事、知りたかったから…」
「…」

私がそう云うと御池様の表情は寂し気なものから少し明るく和らいだものになった。

「お祖父ちゃんの…曾祖母って事は…御池様、すごく永く生きているんだね」
「あぁ、百年以上は疾うに過ぎているな。もうよく解らないが」
「…」
「御池様になると決めた瞬間、俺の人間としての生は失われた。時も止まった。歳を取る事はなかったが──だが身体的老化だけは止める事は出来ぬ」
「完全な神様じゃないから?」
「そうだ。所詮人間の血が混じった雑種だからな。人間よりは遥かに長生きだが神としては全くお話にならないレベルの寿命だ」
「…」
「此処数年、なんとなく解って来ていた。俺の寿命もそろそろ尽きる時かと」
「!」
「そんな時におまえが俺の前に現れた。御池様として生きて来た俺は子を成す事もなくこのままひとり誰にも知られる事なく朽ち果てるのかと思っていた時に」
「…」
「おまえだけが見つけてくれたのだ。そして呑んでくれた──この池の水を」
「…」
「…ミズキ、何故泣いておる」
「…え」

御池様に云われて初めて私は泣いている事に気が付いた。

ポロポロと玉の様な涙が頬を伝って流れた。

「泣くな」
「…はい」

だけど涙は止まる事無く流れた。

御池様の心にほんの少し触れて、其の気持ちが何故かワッと私の体中を駆け巡った。

語られた話だけじゃない。

其れ以外の御池様の気持ちや感情が私の中に流れ込んで来たのだ。

(これって…池の水のせい?)

御池様其のものだといった池の水を呑んでいた私は御池様に支配されている様なものだった。

(だからこんなに気持ちが…)

そう何となく納得してしまった私だった。


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