黒幸父から発せられた言葉。 


『──あぁ、思い出した。おまえあれだ、あいつ……【神の正義】だな』


(神の正義──)

其の言葉はいつか何処かで訊いた事があった。

「…そういえば…人はおれの事をそう呼ぶんだっけ」

自然と口から出た言葉に自分自身が驚いた。

「あら、思い出したの?」
「えぇ、誰?誰なの」

黒幸母と黒幸がキラキラとした視線をおれに向けて来る。

「おれは──」
「全部は思い出せねぇだろう。断片的にだ」
「…」
「てめぇの名前ぐらいは思い出したか?」
「……ザドキエル」

黒幸父に誘導されるまま口から出た名前は随分長く封印されていたものだった。

「ザドキエル…本当懐かしい名前」
「…あんたは」
「ふふっ…今瀬くんと同じ様に昔天使だった者よ」
「…」

黒幸母が何処か懐かしそうにおれの顔を眺めながらニッコリと微笑んだ。

「そうか、ザドキエル──か。こりゃまたとんでもない大物連れて来たな、真羽」
「いや、全然解らなかったよ。何となくお母さんと一緒のタイプの人かな、と思ったけど…まさか、ね」
「おまえは本当こういう人間を見つけるのだけは長けているな」
「其れも一種の才能じゃない?」

「…」

黒幸父娘の会話をぼんやりと訊いている。

(あぁ…そうか…)

そうして徐々に思い出して来る本当の自分と役目を──

「ザドキエル──確か生命の樹・ケセドの守護天使。第四位に数えられる主天使の長」
「おぉ~本当大物だ!」
「固い肩書きの割には温和で優しい人だって記憶があるけれど」
「おい、清子。俺の前で他の男を褒めるな」
「褒めたぐらいでやきもちを妬かないの」
「妬いてねぇ!ただ胸糞悪いだけだっ」
「もぉ~相変わらずお父さんはお母さん激ラブなんだからなぁー」
「真羽、寝言云ってんじゃねぇぞ」

親子の会話を訊いていると断片的に記憶が蘇って来た。

「おれは…朝恵を…姉を──いや、アルミサエルを護らねば」

おれが呟いた言葉に親子は会話を止めた。

「アルミサエル?彼女も転生しているの?」

黒幸母はおれの言葉に応えるように訊き返す。

「…二度目の転生…一度目は失敗、したから…」
「失敗?」
「悪魔に…低級の悪魔にアルミサエルの魂は穢された」
「!」
「だから強制帰還された」
「訊き捨てならねぇな。転生途中で強制帰還なんて大層な事が出来る奴がいるとは」
「──天界神ね」
「てんかいしん?」
「えぇ、つまり天界に君臨する最高神。天使は其の神の元で其々の役割を持って働く部下みたいなものなの」
「天使よりも偉いんだぁ」
「勿論。全ての天使は神の意志の元で行動を起こしたり為したりするの」
「なんでそんな偉そうな奴が一介の天使…えーっと…アルミサエル…だっけか、なんでそいつを二度も転生させてやがんだよ」
「多分…アルミサエルは神の意志に背いた行動を起こしてしまって一度目の転生を途中で止めさせられたんだわ」
「ねぇ、お母さん。そもそも天使が人間に転生して其の一生を全うするのはどうして?」
「神は自身が下界に降りる事が出来ない代わりに天使を使って人間の情報を知って其の知を蓄えているの。つまり天使が人間に転生している間に体験した出来事を人間としての死を迎えて魂を回収する事によって其れを知るって訳」
「まさに使い走りだな」
「アルミサエルは子宮の天使なの」
「は?子宮…?」
「悪魔から妊婦や胎児を護る天使。つまり──」
「子宮の天使としての役目を自らが放棄した為に転生を途中で止めさせられて魂を天界に強制帰還されたんだ」
「…今瀬くん」

おれと同じく天使の転生者だという黒幸母がおれの覚えている限りの話をした。

其れに付け加えるかのようにおれは続けた。

「アルミサエルは人間に転生している間に悪魔との接触により、よりにもよって其の子どもを宿した。低級悪魔の…インキュバスとの間に子どもを」
「インキュバスかよ」
「其れを神はお赦しにはならなかった。子宮の天使として絶対にあってはならない禁忌。其れによってアルミサエルは人間としての生を全うする事無く天界に戻された──しかしさほど時が経たない内に再びアルミサエルは人間に転生した」
「其れはどうして」
「神が目をかけていた人間に不測の事態が起こったから。本来天界に戻すべきではない魂を間違って回収した天使がいた。其の失態の穴埋めにアルミサエルの魂が使われた。其れが──朝恵だ」
「あなたのお姉さんがアルミサエルの今の姿なのね」
「あぁ…其れを受けておれは神に自分が転生する時が来たらアルミサエルを傍で見護っていられる近しい者として転生させて欲しいと願い出ていた」
「其れはザドキエル、あなたがアルミサエルの事を──」
「…おれの願いは聞き届けられ、五年遅れて朝恵の弟として転生を果たした」
「そういう訳でお姉さんに対して色んな想いがあったのね」
「…」

全てを思い出しようやく合点がいった。

(そうだ、おれは今度こそアルミサエルの転生が無事全うされて天界に還れる様に護らなくてはいけないのだ)

「まぁ、事情は解ったけどよ、でもだからって姉の結婚に反対するっていうのは筋違いじゃないのか」
「…相手が悪い」
「シスコンのおまえにかかったらどんな人間も悪いよな」
「違う!ただの人間じゃないから悪いんだ」
「えっ、其れってどういう事?」

「…」

ザドキエルとしての意識が蘇った途端にはっきりと解ってしまった朝恵の婚約者の正体。

「朝恵の婚約者は──悪魔と人間のハーフ」
「えっ」
「しかも其れは…よりにもよってアルミサエルが一度目の転生をした人間と低級悪魔、インキュバスとの間に生まれた息子だ」


おれの言葉は静かな室内に深く響いて行った。


yoas150
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