『 ねぇ、今から家に来ない?』

黒幸の其の言葉に何故か乗ってしまっているおれがいた。


「此処だよ」
「…」

自宅だといっておれを連れ込んだマンションは立派なものだった。

エレベーターに乗り、13階と表示された階で降りた。

其処はマンションの最上階だった。

「おまえの父親って何している人」
「お父さん?検察官だよ」

(検察官って高給取りなんだな)

そんなどうでもいい事を考えながら黒幸は突き当りの部屋で立ち止まり持っていた鍵でドアを開けた。

「ただいまぁ」

黒幸がそう挨拶すると「おかえりなさい」と答えながら中から母親らしき女性が出て来た。

「お母さん、此方先刻電話で話した彼」
「…初めまして、今瀬です」

どう挨拶していいのか解らなかったのでとりあえず差し障りのない言葉を出してみた。

「ご丁寧にどうも。へぇ、君、滅茶苦茶イケメンね」
「…どうも」
「声もイケボねー眼福眼福」
「…」

(なんかノリが母娘って感じした)

うちの母親よりも若そうな黒幸の母親がどうぞどうぞと云って中に招き入れてくれた。

通されたリビングはシンプルだけど統一性のある空間だった。

「晩ご飯、直ぐに出来るから待っていてね」
「は?」

黒幸の母親がおれに向かって笑顔で告げた言葉に一瞬唖然とした。

(晩ご飯?食べるのか?)

つい数時間前に初めて逢った女子とお茶をして、そして自宅に行き晩飯をご馳走になるという超スピード展開に若干ついて行けなかった。

「食べながら話した方が手っ取り早いよね」
「…」

部屋に行って着替えて来ると云った黒幸がリビングに戻って来てそう云った。

部屋着に着替えた黒幸は制服姿より大人びいて見えた。

「今瀬くん、好き嫌いある?」
「あ、ないです」
「そう、よかった」

カウンターキッチンから声を掛けられ何故か流れに乗って会話してしまった。

(…ってか本当なんでおれ、此処にいるんだよ)

こんな事は勿論初めての事で、若干戸惑いつつも冷静になろうと努めていた。


そしてあっという間にテーブルいっぱいにおかずが並べられ、勧められるままご馳走になっていた。

「あ、美味い」
「本当?そう云ってもらえると嬉しいわ」
「うち、これはいつも塩味なんですけどソース味もイケますね」
「其のお家ごとの味付けがあるからね。気に入ってもらえたならよかったわ」

なんだかんだ云って、黒幸の母親は驚くほど話し易い人だった。

(というか…話していると気持ちが落ち着くというか…)

自分の両親や朝恵に感じる気持ちとは別次元の気持ちで何故か安心する人だなと思った。

「ふふっ、やっぱり覚えていなくても滲み出る貫禄は流石だわ」
「…は?」

いきなり黒幸母がほぅとため息をつきながらうっとりした。

「なぁに、そんなに偉い人の魂を持っているの?」
「そうねぇ…どう云ったら伝わるか解らないけれど…わたしの知っている限りとても素敵な人だったわ」
「へぇ、凄いね、今瀬くん」

「…」

急に黒幸母娘にしか解らない話をしだし、おれは茫然とした。

「…あの、偉い人の魂って」
「ねぇ、今瀬くんは天使とか悪魔とかっていう存在を信じている?」
「は?天使と悪魔…?」
「そう」
「…」

いきなり突拍子のない事を訊かれ言葉に詰まる。

だけど黒崎母娘が喜々とした視線をおれに向けているから何か答えなくてはいけないとつい思ってしまった。

「えーっと…漫画とか映画とかによく使われる題材…ですよね」
「うんうん」
「天使がいい奴で悪魔が悪い奴ってイメージで」
「うんうん」
「其れから…後は…」
「存在、信じている?」

最初に受けた質問に戻され、おれは少しだけ考えて答えた。

「信じていません」
「そう、信じていないのね」

黒幸母は変わらぬ笑みを向けながら持っていた箸と皿を置いた。

そして徐に

「残念でした、天使と悪魔は存在しています」

「…」

あっけらかんとした口調でそう云った。

「あははっ、ざーんねん。今瀬くんハズレー」

「…」

黒幸も可笑しそうに声をあげながら笑った。

(……急になんだよ、この母娘)

先刻まで和んだ気持ちでいた胸の中が徐々にムカムカと波立って来た。

馬鹿げた質問をして笑うな──そう怒鳴ってやろうと思った瞬間


「なんだよ、こんな時間に客か?」

「!!」

いきなりリビングのドア付近から聞こえた声に驚き、其れと同時に訳の解らない悪寒がおれの中を走り抜けた。

yoas150
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