──物心ついた時から姉という名前の女の事が好きだった 


『ねぇ、十輝。十輝もお姉ちゃんの事を護ってあげてね』


出産時、一度は心肺停止で死亡判断が出た姉。

其れがなんの奇蹟か数十分後息を吹き返した。

姉を取り上げた父は神様からお告げがあったと云った。

姉は神様から特別の計らいで命を頂いた大切な存在。

だからきちんと育てて幸せにしてまた神様の元に返さねばならないのだとおれに云った。

其れを訊いてから姉は特別な存在なのだとずっと思って来た。

何者からも護って慈しんでそして──



「愛しているのね、お姉さんの事」
「…」

しれっと云った言葉の軽さにムカッとした。

「そっかそっか、稀代の万能イケメンくんはシスコンだったのか」
「──おい、おまえ先刻から」
「まぁまぁ。馬鹿になんかしていないよ」
「あぁ?」
「いいじゃない。愛する事に駄目とか無理とかって──人が決めつける事じゃないよ」
「…」

不本意ながら先刻ほどからあっけらかんと言葉を吐く黒幸にペースを乱されまくりだ。


『教えてあげよっか』

『人を呪い殺す術』

『わたし、其の手の事には詳しいの』


そんな戯言に興味を惹かれ、つい『じゃあお茶しながら話そうよ』というこいつの誘いに乗ってしまった。

「で、其の愛しいお姉さんの婚約者を呪い殺したいと」
「別に殺したいほどの事は思っていない」
「あら、そう?」
「ただ…なんか気に入らないだけだ」
「まぁ君にしたらお姉さんが誰を連れて来たって気に入らないんだろうけどさ」
「そうじゃない、朝恵が本当に幸せになれるならおれは──」
「…」
「だけど…だけどあの男はなんか…朝恵にとってはよくない男の様な気がする」
「…」
「だから間接的に朝恵と別れる様に出来たらいいなと」
「あのさ、なんでお姉さんの婚約者がお姉さんの事を幸せに出来ないと思った訳?」
「は?」
「だって一度見ただけなんでしょう?解るの?そういうの」
「解る」
「…」
「おれは昔からいけ好かない奴の匂いが解るんだ」
「なぁに、其れ」
「知るか、ただ解るだけなんだからおれにだって詳しい事は解らねぇよ」
「……ふふっ」
「なんだよ」

アイスティーをストローでかき混ぜながら黒幸は変な笑い方をした。

ちいさくなった氷同士がぶつかってカランカランと音を立てていた。

「面白いなぁ」
「は?」
「まさか……こんな近くにお仲間がいるとは思わなかった」
「仲間?」
「あぁ、ごめん、こっちの話」

手を左右に振りながらへらっと笑う黒幸に訳の解らない気持ちが湧いた。

(なんだ、この女)

初めて逢った時から独特のオーラを感じていた。

飄々とした其の語り口に時々ムカついたりもしたけれど、何故か突き合わせて話せば話し込むほどに少しずつ訳の解らない違和感を覚えて来た。

「おい」
「ん?」
「おまえが知っている事、全部話せ」
「…」
「おまえ、おれの知らない何かを知っているんだろう」
「…」
「そういうの、解るんだよ」
「…」

確かな確信があった訳じゃない。

だけど何故か朝恵の彼氏という男と会った時から少しずつ感じていた訳の解らない苛立ちとか焦燥感とか…

そういった感情が今にも噴き出しそうで抑えるのに必死だった。

こんな不安定なおれをどうにかしたくて。

何でもいいから縋り付きたくてありとあらゆるものに頼ろうとしていた。

そんな最中にこの女、黒幸に出逢ったのだ。


「おれが抱えている訳の解らないものがおまえには解るんだろう」
「…」
「教えろ」
「…」
「頼む──じゃないとおれは」
「…魂がざわついているんだね」
「──は」
「君の中の…崇高な魂が何とかしたくてもがいているんだね」
「…何、を」

突然宗教めいた事を云う黒幸に唖然とした。

「ねぇ、今から家に来ない?」
「は?」
「あ、別に襲ったりしないよ。家にお母さんいるし」
「んな事考えていねぇよ──ってかなんでいきなりおまえの家になんか」
「解放してあげるよ」
「…」
「君が感じているもどかしい気持ちを、解放してあげる」
「…」

黒幸が何を云っているのか全然解らない。


解らない、けれど…


「ちょっと家に電話して確認してくるね」

そう云って黒幸は店の外に出て電話をかけていた。


(…なんで急にこんな事になった?)


おれにとって黒幸真羽との出逢いがよかったのか悪かったのか──

この時点では何とも云いようがなかったのだった。

yoas150
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