こじんまりとした個室に豪勢な河豚のフルコースが並べられていた。 

「す…凄いですね」
「だね。彼方さんの要望とはいえ…これをふたりでいただくなんてちょっと贅沢が過ぎたかな」

予定していた接待という名の飲み会が先方の都合で中止になり、其のまま予約をキャンセルするのもなんだという事で高岡さんとふたり、お店で食事をする事になった。

「わぁ、本当に透けている!」

目の前に置かれた大皿には河豚刺しがお花を形どった様に並べられていた。

河豚刺しの厚さはお皿の青い絵柄が解る程に薄かった。

「これこれ。さぁ、今瀬さん食べてみて」
「…はい」

初めてのものに箸を付けるドキドキ感が堪らなかった。

ちょっと贅沢だな、と思いながらも私はテレビ番組とかで観た様に河豚刺しをガーッと箸で挟み口に運んだ。

「……どう?初めての河豚」
「……ん」
「あ、ゆっくり味わっていいから」
「~~~っ、お、美味しいです!」

口いっぱいの河豚を丹念に咀嚼し其の味わいを堪能する。

「そう、よかったね」
「癖がなくて淡泊な味ですけど…歯ごたえがあるっていうか」

私は思いつく限りの感想を高岡さんに話した。

「ははっ、そんなに美味しいって感想云われたら河豚刺しになった河豚も本望だろうね」
「…」

何気なく紡がれた言葉だったけれど、高岡さんの口からそういう気持ちが出たのを訊いて何となく高岡さんらしいなと思ってしまった。

「さぁ、ジャンジャン行こうか。あ、お酒は?イケる口?」
「あ──えぇっと…少しだけ、なら」

(お酒!気を付けなくっちゃ)

ポッと頭に浮かんだのはいつだったか夜宵さんと行った居酒屋での事。

生中を4杯飲んで泥酔した事があった。

自分では結構飲める方だと思っていても意外と弱かったのだと自覚した出来事だった。

「じゃあ、どうぞ」
「あ」

高岡さんから差し出されたお猪口を受け取った。

「日本酒、大丈夫?」
「私、日本酒って飲んだ事がないんです」
「お酒も初めて?そうか、今日は今瀬さんにとって初めての事だらけだね」
「…そうですね」

話ながらお猪口に透明な液体が注がれる。

「少しだけ口をつけてごらん」
「はい」

そっとお猪口に唇をつけ、少しだけお酒を啜る。

「──どう?」
「……美味しい!」
「そう、よかった」

(うわぁ~日本酒ってこんな感じなんだ)

初めて飲んだ日本酒はとても口当たりがよくてビールとは違った透き通った飲み易さだった。

「いつもお仕事ご苦労様」
「あ、高岡さんこそ…お疲れ様です」

順番は逆になってしまったけれど、私たちはお互いの事を労って美味しい料理とお酒に舌鼓を打ちながら愉しい時間を過ごしたのだった。






(…ん、いけない)

どのくらい時間が経っただろう。

席の端に置かれた5本の徳利を見つめながら頭がぼんやりしている事に気がつく。

「大丈夫?今瀬さん」
「あ…はい」

お猪口でちびちびやっていると一体どれくらいの量の日本酒を飲んだのか解らない。

でも本能的にこれ以上のアルコール摂取は危険だと頭の中で警鐘が鳴っていた。

「お酒はもう止めようか。今瀬さん、すっごく色っぽい顔になって来ちゃたから」
「…へ?い、色っぽい?!」

突然の言葉にドキッとした。

「うん…普段は可愛いって感じの顔立ちが、今は酔っているのかな…すごく色っぽくなっている」
「~~~っ」

(か、可愛いとか…色っぽいとかっ)

そんな事云われた事も思われた事もないだろう言葉に一気に顔に熱が集まった。

「今瀬さん?」
「は、ははっ…た、高岡さんでも冗談を云うんですね」
「冗談?」
「そんな…私が可愛いとか…い、いろ、色っぽいとかだなんて」

云われ慣れていない言葉につい過剰に反応してしまう。

こういう事に慣れていない私は冗談ひとつ上手く交わせないのだなと少し陰鬱になった。

「僕、冗談なんて云わないよ」
「………ぇ」

俯いていた顔に影が陰った。

ゆっくり顔を上げると先刻までテーブルの向かい側に居た高岡さんがいつの間にか私の真横に移動していた。

「冗談なんて、云わないよ」
「っ!」

不意に高岡さんの掌が私の頬に置かれた。

「僕はね、ずっと思っていたんだよ」
「な…なっ…」
「今瀬さん…可愛いなって」
「!」

頬に置かれた掌にグッと力が入り、私の顔は高岡さんの顔間近に引き寄せられた。

yoas150
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