Evil Dolce

* AriaLien Sub BLOG *

◆Evil Dolceは樹野花葉(キノハナハ)の過去の作品を更新しているブログです。
◆不思議要素のある恋愛物語をメインに綴っています。
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2018年01月

夜と朝のまにまに 60話



黒幸父から発せられた言葉。 


『──あぁ、思い出した。おまえあれだ、あいつ……【神の正義】だな』


(神の正義──)

其の言葉はいつか何処かで訊いた事があった。

「…そういえば…人はおれの事をそう呼ぶんだっけ」

自然と口から出た言葉に自分自身が驚いた。

「あら、思い出したの?」
「えぇ、誰?誰なの」

黒幸母と黒幸がキラキラとした視線をおれに向けて来る。

「おれは──」
「全部は思い出せねぇだろう。断片的にだ」
「…」
「てめぇの名前ぐらいは思い出したか?」
「……ザドキエル」

黒幸父に誘導されるまま口から出た名前は随分長く封印されていたものだった。

「ザドキエル…本当懐かしい名前」
「…あんたは」
「ふふっ…今瀬くんと同じ様に昔天使だった者よ」
「…」

黒幸母が何処か懐かしそうにおれの顔を眺めながらニッコリと微笑んだ。

「そうか、ザドキエル──か。こりゃまたとんでもない大物連れて来たな、真羽」
「いや、全然解らなかったよ。何となくお母さんと一緒のタイプの人かな、と思ったけど…まさか、ね」
「おまえは本当こういう人間を見つけるのだけは長けているな」
「其れも一種の才能じゃない?」

「…」

黒幸父娘の会話をぼんやりと訊いている。

(あぁ…そうか…)

そうして徐々に思い出して来る本当の自分と役目を──

「ザドキエル──確か生命の樹・ケセドの守護天使。第四位に数えられる主天使の長」
「おぉ~本当大物だ!」
「固い肩書きの割には温和で優しい人だって記憶があるけれど」
「おい、清子。俺の前で他の男を褒めるな」
「褒めたぐらいでやきもちを妬かないの」
「妬いてねぇ!ただ胸糞悪いだけだっ」
「もぉ~相変わらずお父さんはお母さん激ラブなんだからなぁー」
「真羽、寝言云ってんじゃねぇぞ」

親子の会話を訊いていると断片的に記憶が蘇って来た。

「おれは…朝恵を…姉を──いや、アルミサエルを護らねば」

おれが呟いた言葉に親子は会話を止めた。

「アルミサエル?彼女も転生しているの?」

黒幸母はおれの言葉に応えるように訊き返す。

「…二度目の転生…一度目は失敗、したから…」
「失敗?」
「悪魔に…低級の悪魔にアルミサエルの魂は穢された」
「!」
「だから強制帰還された」
「訊き捨てならねぇな。転生途中で強制帰還なんて大層な事が出来る奴がいるとは」
「──天界神ね」
「てんかいしん?」
「えぇ、つまり天界に君臨する最高神。天使は其の神の元で其々の役割を持って働く部下みたいなものなの」
「天使よりも偉いんだぁ」
「勿論。全ての天使は神の意志の元で行動を起こしたり為したりするの」
「なんでそんな偉そうな奴が一介の天使…えーっと…アルミサエル…だっけか、なんでそいつを二度も転生させてやがんだよ」
「多分…アルミサエルは神の意志に背いた行動を起こしてしまって一度目の転生を途中で止めさせられたんだわ」
「ねぇ、お母さん。そもそも天使が人間に転生して其の一生を全うするのはどうして?」
「神は自身が下界に降りる事が出来ない代わりに天使を使って人間の情報を知って其の知を蓄えているの。つまり天使が人間に転生している間に体験した出来事を人間としての死を迎えて魂を回収する事によって其れを知るって訳」
「まさに使い走りだな」
「アルミサエルは子宮の天使なの」
「は?子宮…?」
「悪魔から妊婦や胎児を護る天使。つまり──」
「子宮の天使としての役目を自らが放棄した為に転生を途中で止めさせられて魂を天界に強制帰還されたんだ」
「…今瀬くん」

おれと同じく天使の転生者だという黒幸母がおれの覚えている限りの話をした。

其れに付け加えるかのようにおれは続けた。

「アルミサエルは人間に転生している間に悪魔との接触により、よりにもよって其の子どもを宿した。低級悪魔の…インキュバスとの間に子どもを」
「インキュバスかよ」
「其れを神はお赦しにはならなかった。子宮の天使として絶対にあってはならない禁忌。其れによってアルミサエルは人間としての生を全うする事無く天界に戻された──しかしさほど時が経たない内に再びアルミサエルは人間に転生した」
「其れはどうして」
「神が目をかけていた人間に不測の事態が起こったから。本来天界に戻すべきではない魂を間違って回収した天使がいた。其の失態の穴埋めにアルミサエルの魂が使われた。其れが──朝恵だ」
「あなたのお姉さんがアルミサエルの今の姿なのね」
「あぁ…其れを受けておれは神に自分が転生する時が来たらアルミサエルを傍で見護っていられる近しい者として転生させて欲しいと願い出ていた」
「其れはザドキエル、あなたがアルミサエルの事を──」
「…おれの願いは聞き届けられ、五年遅れて朝恵の弟として転生を果たした」
「そういう訳でお姉さんに対して色んな想いがあったのね」
「…」

全てを思い出しようやく合点がいった。

(そうだ、おれは今度こそアルミサエルの転生が無事全うされて天界に還れる様に護らなくてはいけないのだ)

「まぁ、事情は解ったけどよ、でもだからって姉の結婚に反対するっていうのは筋違いじゃないのか」
「…相手が悪い」
「シスコンのおまえにかかったらどんな人間も悪いよな」
「違う!ただの人間じゃないから悪いんだ」
「えっ、其れってどういう事?」

「…」

ザドキエルとしての意識が蘇った途端にはっきりと解ってしまった朝恵の婚約者の正体。

「朝恵の婚約者は──悪魔と人間のハーフ」
「えっ」
「しかも其れは…よりにもよってアルミサエルが一度目の転生をした人間と低級悪魔、インキュバスとの間に生まれた息子だ」


おれの言葉は静かな室内に深く響いて行った。


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夜と朝のまにまに 59話



いきなり聞こえた低くドスの利いた声にゾクッと背筋が粟立った。 

(な、なんだ…急に)

其処に立っていたのは恐ろしく背の高い全身真っ黒なスーツに身を包んだ男だった。

「おかえり、眷蔵」
「お父さんお帰りなさい」

「は?お、お父…さん?」

黒幸母娘の台詞からこの黒い男がこの家の主だと解った。

「お父さん云うな。ってか誰だよ、こいつ」
「真羽の彼氏よ」

黒幸母の勘違い発言に黒幸父はギロッとおれを睨んだ。

其の視線だけで射殺せそうな無言の威圧に慌てて反論した。

「ち、違う!彼氏じゃない。ただの同級生だっ」
「そうそう、まだ彼氏じゃないんだよね~」
「はぁ?!まだとか云ってんじゃねぇ!」

母親に次いで黒幸も勘違い発言をしている。

「へぇ、まだ彼氏じゃない同級生のナニくんか」
「あ、い、今瀬です。別に黒幸とは何でもありませんから」
「何でも…ねぇ」
「…」

先刻から感じている押し潰されそうな空気感。

(なんだよ…滅茶苦茶息苦しい)

黒幸父が現れた途端其の場の雰囲気が変わった気がした。

「ちょっと眷蔵、威嚇してるんじゃないわよ」
「痛っ!」

黒幸母が黒幸父の頭をグーでボカッと殴った。

(ゲッ!黒幸母、最強)

黒幸父の恐ろしい程に禍々しいオーラが一瞬で消え失せた。

「ごめんなさいね、今瀬くん。この人基本いい人なんだけれど娘の事になると悪い気を処構わず放っちゃって」
「…はぁ」
「でも別に取って喰いはしないから安心して」
「…」

この何処からどう見ても黒い人を『いい人』とか云って退けるこの黒幸母こそがこの家の主かと認識したおれだった。

「で?本当何なの、このちょっと厭な匂いのする小僧は」

黒幸父はおれの隣の席に着き、徐に食事を始めた。

(厭な匂いって…なんだよ)

「ふふっ、今瀬くんはわたしの仲間よ。まさかこんな身近にいたとは思わなかったけれど」

黒幸母は黒幸父にご飯をよそって何事もなく話を続けた。

「今瀬くん、お姉さんの事が好きで、でもお姉さんには婚約者がいて、其の婚約者とは幸せになれないから反対しているんだって」
「ブッ!」

黒幸が黒幸父にぶっちゃけ過ぎな事情説明をするから思わず飲んでいた味噌汁を噴き出した。

「おい、汚ねぇな!ってか清子の作った味噌汁を粗末にするな!」
「す、すみませんっ」

何故か黒幸父に怒鳴られ、でも親切におしぼりを手渡されて恐縮するやら戸惑うやら色々動揺してしまった。

「まぁまぁ。大丈夫?今瀬くん」
「はい…す、すみません」

零した場所を拭き取ってくれて、お椀には新しく味噌汁が追加されていた。

混乱する頭を抱えている間にも黒幸は自分の父母におれの事情を伝えていた。

(くそ…本当なにやってんだ、おれは)

この数時間の間に何故おれの隠しておきたかった悩みを全然知らない他人にぶち撒かれているのか訳が解らなかった。

「はぁん…そういう事か。道理で厭な匂いがプンプンしていると思った」
「お父さん、天使の匂い嫌いだもんね」
「あら、じゃあわたしの匂いも嫌いって訳なの?」
「お母さんは別なんでしょう?だからわたしがいる訳だし」
「子どもが生意気云うんじゃねぇ。ってか──」

先刻程から繰り広げられている黒幸親子の会話は最早おれにはチンプンカンプンだった。

ただ黙って食事を摂りながら其のまま他人事のように訊いているしかなかった。

「おい、おまえ──今瀬、何くん」
「…十輝です」
「とき──おまえの悩みをこの俺様が解決してやる」
「え」
「こう見えても俺は偉い検事なんでな。善悪を裁く事に関してはお茶の子さいさいだぜ」
「お父さん、此処に検事は関係ないと思う」
「勢いづいて云っているだけだ。いちいち突っ込むな、真羽」
「はぁい」

「…」

(今、悩みを解決するって云ったか?)

何故こんな会って数分しか経っていない他人におれが長年抱えて来た悩みを解決されなければいけないんだと思った。

(検察官って云っていたけど…そういうの関係ないよな)

若干訝しんで黒幸父を凝視すると

「──あぁ、思い出した。おまえあれだ、あいつ……【神の正義】だな」
「…っ!」

訳の解らない言葉を放ちつつ、黒幸父の人さし指がいきなりおれの額をコツッと突いた。

其の瞬間、まるで薄い膜みたいな靄が掛かっていた頭の中がサ──ッとクリアになった気がした。

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夜と朝のまにまに 58話



『 ねぇ、今から家に来ない?』

黒幸の其の言葉に何故か乗ってしまっているおれがいた。


「此処だよ」
「…」

自宅だといっておれを連れ込んだマンションは立派なものだった。

エレベーターに乗り、13階と表示された階で降りた。

其処はマンションの最上階だった。

「おまえの父親って何している人」
「お父さん?検察官だよ」

(検察官って高給取りなんだな)

そんなどうでもいい事を考えながら黒幸は突き当りの部屋で立ち止まり持っていた鍵でドアを開けた。

「ただいまぁ」

黒幸がそう挨拶すると「おかえりなさい」と答えながら中から母親らしき女性が出て来た。

「お母さん、此方先刻電話で話した彼」
「…初めまして、今瀬です」

どう挨拶していいのか解らなかったのでとりあえず差し障りのない言葉を出してみた。

「ご丁寧にどうも。へぇ、君、滅茶苦茶イケメンね」
「…どうも」
「声もイケボねー眼福眼福」
「…」

(なんかノリが母娘って感じした)

うちの母親よりも若そうな黒幸の母親がどうぞどうぞと云って中に招き入れてくれた。

通されたリビングはシンプルだけど統一性のある空間だった。

「晩ご飯、直ぐに出来るから待っていてね」
「は?」

黒幸の母親がおれに向かって笑顔で告げた言葉に一瞬唖然とした。

(晩ご飯?食べるのか?)

つい数時間前に初めて逢った女子とお茶をして、そして自宅に行き晩飯をご馳走になるという超スピード展開に若干ついて行けなかった。

「食べながら話した方が手っ取り早いよね」
「…」

部屋に行って着替えて来ると云った黒幸がリビングに戻って来てそう云った。

部屋着に着替えた黒幸は制服姿より大人びいて見えた。

「今瀬くん、好き嫌いある?」
「あ、ないです」
「そう、よかった」

カウンターキッチンから声を掛けられ何故か流れに乗って会話してしまった。

(…ってか本当なんでおれ、此処にいるんだよ)

こんな事は勿論初めての事で、若干戸惑いつつも冷静になろうと努めていた。


そしてあっという間にテーブルいっぱいにおかずが並べられ、勧められるままご馳走になっていた。

「あ、美味い」
「本当?そう云ってもらえると嬉しいわ」
「うち、これはいつも塩味なんですけどソース味もイケますね」
「其のお家ごとの味付けがあるからね。気に入ってもらえたならよかったわ」

なんだかんだ云って、黒幸の母親は驚くほど話し易い人だった。

(というか…話していると気持ちが落ち着くというか…)

自分の両親や朝恵に感じる気持ちとは別次元の気持ちで何故か安心する人だなと思った。

「ふふっ、やっぱり覚えていなくても滲み出る貫禄は流石だわ」
「…は?」

いきなり黒幸母がほぅとため息をつきながらうっとりした。

「なぁに、そんなに偉い人の魂を持っているの?」
「そうねぇ…どう云ったら伝わるか解らないけれど…わたしの知っている限りとても素敵な人だったわ」
「へぇ、凄いね、今瀬くん」

「…」

急に黒幸母娘にしか解らない話をしだし、おれは茫然とした。

「…あの、偉い人の魂って」
「ねぇ、今瀬くんは天使とか悪魔とかっていう存在を信じている?」
「は?天使と悪魔…?」
「そう」
「…」

いきなり突拍子のない事を訊かれ言葉に詰まる。

だけど黒崎母娘が喜々とした視線をおれに向けているから何か答えなくてはいけないとつい思ってしまった。

「えーっと…漫画とか映画とかによく使われる題材…ですよね」
「うんうん」
「天使がいい奴で悪魔が悪い奴ってイメージで」
「うんうん」
「其れから…後は…」
「存在、信じている?」

最初に受けた質問に戻され、おれは少しだけ考えて答えた。

「信じていません」
「そう、信じていないのね」

黒幸母は変わらぬ笑みを向けながら持っていた箸と皿を置いた。

そして徐に

「残念でした、天使と悪魔は存在しています」

「…」

あっけらかんとした口調でそう云った。

「あははっ、ざーんねん。今瀬くんハズレー」

「…」

黒幸も可笑しそうに声をあげながら笑った。

(……急になんだよ、この母娘)

先刻まで和んだ気持ちでいた胸の中が徐々にムカムカと波立って来た。

馬鹿げた質問をして笑うな──そう怒鳴ってやろうと思った瞬間


「なんだよ、こんな時間に客か?」

「!!」

いきなりリビングのドア付近から聞こえた声に驚き、其れと同時に訳の解らない悪寒がおれの中を走り抜けた。

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夜と朝のまにまに 57話



──物心ついた時から姉という名前の女の事が好きだった 


『ねぇ、十輝。十輝もお姉ちゃんの事を護ってあげてね』


出産時、一度は心肺停止で死亡判断が出た姉。

其れがなんの奇蹟か数十分後息を吹き返した。

姉を取り上げた父は神様からお告げがあったと云った。

姉は神様から特別の計らいで命を頂いた大切な存在。

だからきちんと育てて幸せにしてまた神様の元に返さねばならないのだとおれに云った。

其れを訊いてから姉は特別な存在なのだとずっと思って来た。

何者からも護って慈しんでそして──



「愛しているのね、お姉さんの事」
「…」

しれっと云った言葉の軽さにムカッとした。

「そっかそっか、稀代の万能イケメンくんはシスコンだったのか」
「──おい、おまえ先刻から」
「まぁまぁ。馬鹿になんかしていないよ」
「あぁ?」
「いいじゃない。愛する事に駄目とか無理とかって──人が決めつける事じゃないよ」
「…」

不本意ながら先刻ほどからあっけらかんと言葉を吐く黒幸にペースを乱されまくりだ。


『教えてあげよっか』

『人を呪い殺す術』

『わたし、其の手の事には詳しいの』


そんな戯言に興味を惹かれ、つい『じゃあお茶しながら話そうよ』というこいつの誘いに乗ってしまった。

「で、其の愛しいお姉さんの婚約者を呪い殺したいと」
「別に殺したいほどの事は思っていない」
「あら、そう?」
「ただ…なんか気に入らないだけだ」
「まぁ君にしたらお姉さんが誰を連れて来たって気に入らないんだろうけどさ」
「そうじゃない、朝恵が本当に幸せになれるならおれは──」
「…」
「だけど…だけどあの男はなんか…朝恵にとってはよくない男の様な気がする」
「…」
「だから間接的に朝恵と別れる様に出来たらいいなと」
「あのさ、なんでお姉さんの婚約者がお姉さんの事を幸せに出来ないと思った訳?」
「は?」
「だって一度見ただけなんでしょう?解るの?そういうの」
「解る」
「…」
「おれは昔からいけ好かない奴の匂いが解るんだ」
「なぁに、其れ」
「知るか、ただ解るだけなんだからおれにだって詳しい事は解らねぇよ」
「……ふふっ」
「なんだよ」

アイスティーをストローでかき混ぜながら黒幸は変な笑い方をした。

ちいさくなった氷同士がぶつかってカランカランと音を立てていた。

「面白いなぁ」
「は?」
「まさか……こんな近くにお仲間がいるとは思わなかった」
「仲間?」
「あぁ、ごめん、こっちの話」

手を左右に振りながらへらっと笑う黒幸に訳の解らない気持ちが湧いた。

(なんだ、この女)

初めて逢った時から独特のオーラを感じていた。

飄々とした其の語り口に時々ムカついたりもしたけれど、何故か突き合わせて話せば話し込むほどに少しずつ訳の解らない違和感を覚えて来た。

「おい」
「ん?」
「おまえが知っている事、全部話せ」
「…」
「おまえ、おれの知らない何かを知っているんだろう」
「…」
「そういうの、解るんだよ」
「…」

確かな確信があった訳じゃない。

だけど何故か朝恵の彼氏という男と会った時から少しずつ感じていた訳の解らない苛立ちとか焦燥感とか…

そういった感情が今にも噴き出しそうで抑えるのに必死だった。

こんな不安定なおれをどうにかしたくて。

何でもいいから縋り付きたくてありとあらゆるものに頼ろうとしていた。

そんな最中にこの女、黒幸に出逢ったのだ。


「おれが抱えている訳の解らないものがおまえには解るんだろう」
「…」
「教えろ」
「…」
「頼む──じゃないとおれは」
「…魂がざわついているんだね」
「──は」
「君の中の…崇高な魂が何とかしたくてもがいているんだね」
「…何、を」

突然宗教めいた事を云う黒幸に唖然とした。

「ねぇ、今から家に来ない?」
「は?」
「あ、別に襲ったりしないよ。家にお母さんいるし」
「んな事考えていねぇよ──ってかなんでいきなりおまえの家になんか」
「解放してあげるよ」
「…」
「君が感じているもどかしい気持ちを、解放してあげる」
「…」

黒幸が何を云っているのか全然解らない。


解らない、けれど…


「ちょっと家に電話して確認してくるね」

そう云って黒幸は店の外に出て電話をかけていた。


(…なんで急にこんな事になった?)


おれにとって黒幸真羽との出逢いがよかったのか悪かったのか──

この時点では何とも云いようがなかったのだった。

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夜と朝のまにまに 56話



「はぁ、本当参る」
「…でも…仕方がないですよね」
「は?」
「黒川さんって…ああいう人ですから」
「…やけに物分かりがいいんだな、朝恵」

秘書室を出た私たちは始業時間までの間、休憩スペースでコーヒーを飲んでいた。

「多分黒川さんはほんのちょっとした悪戯心でやったんだと思います」
「ほんのちょっとの悪戯にしては度が過ぎる。よりにもよってエステティシャンが実はサキュバスだとか──あり得ない」
「其れは…そうですけど」

でもちゃんとエステは施術してもらって気持ちよかったし無料だったし皆さん優しかったし…

(まぁ…恥ずかしい術はかけられちゃったけど…)

「──朝恵」
「は、はいっ」

私の顔を見つめていた夜宵さんの顔が少し赤らんだのが解った。

きっと私が考えている事を察したのだろう。

「ま…まぁ…ああいう朝恵も…新鮮だったけど…」
「…やっぱり私…もう少し頑張った方がいいですか」
「え」
「だって夜宵さん、私の知らない私に凄く満足しているみたいで…」
「そ、其れは本当、ただ新鮮だったという事のみの嬉しさで…他意はない」
「……」

いつも夜宵さんにベタベタに愛されるばかりの私。

受け身でいる私はもっと夜宵さんの為に積極的になった方がいいのだろうかと思った。

(凄く…すっごく恥ずかしいけれど…)

すると夜宵さんがフッと微笑みながら私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「今の朝恵のままでいいよ」
「え」
「エステも通わなくていい。あんた今のままで充分綺麗だし、其れ以上綺麗になられたら…俺が困る」
「…」
「其れに───」

私の耳元に近づき、まるで内緒話をするかの様にこそっと夜宵さんは囁いた。

『セックスに関しては俺がきっちり調教しているから其の内否応なしに積極的になる』

「?!」

(な…なんて事を~~~っ!)

夜宵さんの言葉が私を大いに動揺させる。

だけど

「そ、そう…ですか」
「あぁ」
「徐々に…頑張ります」
「期待している」

恥ずかしかったけれど何故か素直に夜宵さんの言葉を受け入れられた私。


──こうしてエステの件はほんの少しの波乱を含んで無事事なきを得たのだった


そして結婚式まで何事もなく日々が過ぎて行くだろうと思っている私の知らない処で少しだけ波立つ事が起きていた。








「これ、本当に借りるの?」
「んだよ、いちいちタイトル確認するんじゃねぇよ」
「確認するわよ。図書委員だし、貸出作業するんだから」
「…はぁ、いいからサッサとしろ」
「はいはい」

本に貼られているバーコードをピッピッと読み込んで行き、カタカタとキーボードを打つ音が静かな室内に響いていた。

「はい。期限は二週間です」
「おう」

奪う様に借りた本を手にして図書室を出ようとした。

「ねぇ、誰を呪い殺したいの?」
「──あ?」

ちいさい癖にやけに通りのいい声が耳に届き、思わず反応してしまった。

すると声の主である図書委員がカウンターから出て来ながら続けた。

「君、誰かを呪い殺したいんでしょう?」
「…なんで」
「だってそんな本借りるなんてそうとしか考えられない」
「…」

図書委員が指さしているのはおれの手にある今借りたばかりの本。

真っ黒の革張りの装丁に金色の文字で【黒魔術の心得】と書かれている。

世の中にこんな本が存在していた事も、ましてや高校の図書室に置いてあるだなんて知らず、だけど思わず手に取ってしまって──

「わたし、4組の黒幸真羽」
「くろさき…まはね?」
「そう。君は1組の今瀬十輝くんだよね。みんながカッコいいって噂している万能イケメン」
「…なんだよ、其れ」

妙に馴れ馴れしい女子に厭気が差し、無視して帰ろうとした。

「教えてあげよっか」
「あ?」
「人を呪い殺す術」
「…」
「わたし、其の手の事には詳しいの」
「…」


なんだか妙な事に巻き込まれそうな予感がしたのだった。


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