Evil Dolce

* AriaLien Sub BLOG *

◆Evil Dolceは樹野花葉(キノハナハ)の過去の作品を更新しているブログです。
◆不思議要素のある恋愛物語をメインに綴っています。
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2017年12月

夜と朝のまにまに 24話



湧き上がる戸惑いを隠しつつなんとか高岡さんとのやり取りを終えた。

高岡さんはいつも通りの爽やかな笑顔を残しつつ颯爽とフロアを出て行った。


「…はぁ」

再びフロアにひとりになった私はホッと息を吐いた。

のっそりと自分のデスクに戻ろうとした瞬間

「朝恵」
「!」

いきなり耳元で囁かれた低い声。

ギョッとして声のした方を向こうとしたけれど其れが適う前に私は強い力に引っ張られる様にフロアから移動させられていた。

「ちょ、ちょっと…っ」

掴まれている腕が少し痛んだ。

あまりにも強い力と速い歩幅に足が縺れそうになる。

視線が脚ばかりに向いているから私を掴んでいる人が誰なのか解らない。

(でもこの人って…)

先刻聞こえた声はとてもよく知っている声。

其れに空気の流れに乗って香る匂いは数時間前まで直ぐ傍にあったものだ。


やがて連れて来られた処は今まで滅多に上がった事のない階上の細く区切られている扉が並ぶフロア。

其の内のひとつに私は連れ込まれた。

トンッと背中を押され先に入室させられ、後から入った彼はドアを閉め鍵を掛けた。

「あっ…」

施錠の音にザワッとしたものを感じ、ゆっくり振り返ると其処には相変わらず表情の見えない彼がいた。

「…く、暮永さん」
「…」

彼は真っ直ぐ私を見つめていた。

決して広いとはいえない細長い空間に机と椅子、机の上にはPCが一台置かれていた。

「…あの…暮な」
「浮気するな」
「へ?」

やっと私の声掛けに応えてくれたと思ったら、其の開口一番に発した言葉に思考が固まった。

「何朝っぱらから高岡とイチャついているんだ」
「! イ…イチャ…ついてって…」
「抱きしめられて顔を赤らめた」
「あ、あれは…ちょっとしたアクシデントで…咄嗟の事で」
「…」

何処から何処まで見ていたのか解らないけれど、暮永さんが云っているのは先刻私がよろけて体勢を崩した処を高岡さんが支えてくれた場面の事なんだろうと思った。

「何も他意はないです!ただ、条件反射で赤くなっただけで…私…っ」
「…」
「浮気なんてそんな言葉を…使わないでください」
「…」

私をジッと見つめる暮永さんの見えない視線が痛かった。

よく見えないあの分厚い前髪の奥の綺麗な瞳は今、私をどんなふうに映しているのかと考えるとなんともいえない気持ちになった。

「私は…私は暮永さんの事が─── っ!」

あなたの事が好きだと、そう云おうとした唇はグッと塞がれてしまった。

「っ」
「…」

強く押し付けられた唇を薄く開けると直ぐに暮永さんの熱い舌が私の中に滑り込んだ。

「ふっ」
「…ん、っ」

妖しく蠢く舌遣いに懸命に応える。

クチュクチュと恥ずかしい音が私の耳を擽ると徐々に体が熱くなって来たのが解った。

(ダ…ダメっ…!)

私は此処が何処で、どういう状況なのかを思い出し、抱きしめられている暮永さんの腕を取った。

「く、暮永さん…ダメ、です」
「…」
「此処…会社で…これ以上は」
「誰も来ない」
「え」
「こんな時間に此処に来るような真面目な社員はいない」
「…っ」

だから何──と更に拒否したかったけれど、私の体はあっという間に暮永さんの腕の中に収まり、其のまま反転させられた。

「なっ」
「我慢出来ない」
「?!」

PCの乗ったデスクの上に上半身をうつ伏せにさせられ其のまま制服のスカートの中に暮永さんの手が滑り込んだ。

「! ちょっ…暮永さんっ、何を」
「ほら、尻上げて」
「!」

いつの間にか下げられていた下着が踝まで落ちていた。

あっ──と思った瞬間、私の中に重い肉感が挿入り込んだ。

「あぁぁっ!」
「ふ…ぅ、声、抑えろ」
「ふっ…うっ…うぅっ」

後ろからズボズボと挿入りこむ其れは容赦なく私の奥深くまで貫いた。

背筋から脳に一瞬にして快感が駆け抜けた。

「ふぅ…うっ、んっんんっ」

後ろから暮永さんに抑えられている口からはくぐもった喘ぎ声しか出ない。

「はぁ…朝恵…あんた凄い…んっ」
「ん、んんっ」

ズンズンと腰をくねらせて暮永さんのモノが私の中のあらゆる処を擦り付ける。

(はぁっ…やだ…気持ちよ過ぎて…っ)

こんな処でダメだという清廉な気持ちが濃厚な行為によって黒く塗り替えられて行く。

「朝恵、朝恵…」
「ぅ…ふっ」

満足に出せない声を補う様に、いつの間にか私は暮永さんから求められるありとあらゆる要求に体を持って応えてしまっていたのだった。

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夜と朝のまにまに 23話



──気が付いた時には彼は何処にもいなかった


土曜日の夜から日曜日の夜にかけて一緒に過ごした。

其の時間の大半は甘い事に費やされたけれど、其れでもお互いの気持ちを確認し確かめ合うには濃厚な時間だったと思う。


(だけど今朝、目が覚めたらいなかったんだよね)

月曜日、筋肉痛のせいでふらつく足取りで少し早めに出社した。

仕事が始まる前に少しだけでも暮永さんと話す事が出来たらいいなと思ったからだ。

しかしそんなに広い会社ではないけれど、明確な目的を持って逢おうと思わなければ気になる人には逢えないでいた。

出来れば偶然に逢えたらいいなと思ったのだけれど世の中そう単純には出来ていない様だった。

(まぁ家に来た時もよく解らない状況だったし帰るのだってよく解らないんだろうな)

ちゃんとした挨拶もなしに姿を消した暮永さん。

そんな行動に私は一抹の不安を抱えた。


あの甘い時間は現実の事だったのか──?


其れをちゃんと確認したい気持ちがある一方で、どうしても今ひとつよく解っていない。

好きなんだと自覚して求められるまま処女を捧げた彼、暮永さんは普通の人間ではないという事だったけれど…

(えぇっと…なんだっけ)

フロアに人がいないのを確認しつつ自分のデスクのパソコンで検索する。

検索ワードは<インキュバス>

(…淫魔?)

最初に出て来るのはこれまた訊き慣れない言葉。

『淫魔、または夢魔とも呼ばれる。夢の中に現れ性交を行う下級の悪魔』

(下級の悪魔…)

『インキュバスは男性型の夢魔の事で睡眠中の女性を襲い精液を注ぎ込み悪魔の子を妊娠させる。其の際性交したくて堪らなくさせるために襲う女性の理想の男性に姿を変え現れるとされる』

(~~っ!)

意味を調べれば調べるほどに暮永さんの言動や行動とが一致して来る様に思えた。

(そうか…私が体験したあれって…全て暮永さんの夢魔の力によるものだったんだ)

つまり当初高岡さんに色々されていた事は全て暮永さんがしていた事で…

(高岡さんにされたと思っていた初めてのキスも本当は…)

はぁ~とため息が出た。

こんな事にわかに信じ難い現実だけれど、実際私はこの不可思議な出来事を体験したのだ。

嘘みたいな話で信じられなくても、私は現実として経験してしまったのだから──

「今瀬さん」
「!!」

不意に呼ばれて心臓が口から出るほどに驚いた。

慌ててパソコン画面を伏せてしまう。

「あ…ごめんね?驚かせちゃったかな」
「たっ、高岡さんっ」

振り向くと其処には少しだけ疚しい気持ちを持ってしまっていた高岡さんがいた。

「朝早くにごめんね。金曜日に頼んだ備品なんだけど用意出来ているかな?」
「あっ、そ、そうでしたね!」

一瞬頭の中が真っ白になってしまって呆けた私だったけれど、冷静になろうと懸命に頭を働かせた。

しかし

「あっ」
「危ない」

焦って椅子から立ち上がった拍子に足がもつれて其のままバランスを崩してしまった。

倒れる!と思ったけれど──

「………」
「だ、大丈夫?」
「~~~っ」

傾いた体は高岡さんの腕の中にすっぽり納まっていた。

(だ、だだ抱きしめられている?!)

寸での処を高岡さんの咄嗟の行動で事なきを得た。

だけど其の行為は私の顔を一瞬の内に真っ赤にするには充分なものだった。

「気を付けてね」
「あ…あっ…ありがとう…ございますっ」

何故か胸が高鳴り動悸が激しい。

高岡さんがにっこりと笑っている。

(……あれ?)

ほんの一瞬、感じたものがあった。

其の引っかかるものを感じた瞬間、先刻まで感じていた激しい動悸は徐々に治まって行った。

「…今瀬さん?」
「あっ、び、備品、でしたね」

私は思い出したかのように納品棚まで歩を進めた。

(何やっているのよ私…!高岡さんに変に思われちゃうじゃない)

もう思われているかも知れないと思いつつ、なるべく冷静さを装い高岡さんに対応したのだった。

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夜と朝のまにまに 22話



──好きになった人は悪魔でした


(い、いや…違う。半分悪魔?…インキュバス…?)

「朝恵、おかわり」
「あっ、は、はい」

なんとも不思議な夜を経て、暮永さんの正体を訊かされなんだかんだとやっている内に私は朝食を作り暮永さんと共に食していた。

「あのさ、あまり真剣に考えなくていいから」
「へ?」
「俺が半分悪魔だとか」
「…」
「ごく短い時間、夢の中に入る事以外は何も出来ないから。本当普通の人間とほぼほぼ変わらないから」
「……あ、あのぉ…前々からちょこちょこ思っていたんですけど…」
「何」
「もしかして…暮永さんって…考えている事が解ったり…するのですか?」
「あぁ、ある程度は」
「!」
「まぁ訊きたいと思って訊く訳じゃないけど。興味あるやつの心の声はなんとなく解る」
「い、いやぁぁぁぁー!聞かないでー解らないでぇぇぇー!」

そう、ずっと思っていた。

私が口に出していない事を暮永さんが答えたりする事が何度かあったから。

「あんたの場合別に聞かれてマズい事なんて考えていない。まんま顔に出ている事しか考えていないし」
「そ、そ、其れでも…は、恥ずかしいので止めてください~~っ!」
「…本当あんたって…裏表がないよな」
「え」

私が作った簡単な朝食を食べながら暮永さんはフッと笑みを湛えながら云った。

「他の奴は云ってる事と思っている事は大抵正反対だっていうのに。あんたはわざわざ考え読まなくても言葉通りの事しか云っていないから安心するんだ」
「…暮永さん」
「そういう処も惚れた理由のひとつかな」
「っ!」

急に妙に色っぽい視線と口調で云われた言葉にドキンと胸が高鳴った。

(あわわわ~朝から其の麗しい表情は危険です!)

「…」
「あ、あの…お味噌汁のお替わりは──」
「朝恵」
「えっ」

話を逸らす様に椅子から立ち上がった私の腕を暮永さんは掴んだ。

「…」
「な、なん、ですか?」
「好きだよ」
「!」

グッと私の体を引き寄せた暮永さんは私にチュッとキスをした。

「なっ…なん…なんですか、突然」
「キス、したそうだったから」
「えぇっ」
「其れに──」
「あっ」

両膝裏に腕が滑り込み、あっという間にお姫様抱っこされていた。

「キス以上の事も望んでいるよな」
「!!」
「期待されちゃ応えない訳にはいかない」
「な、なっ…暮永さんっ」

(そんな…私が考えていたのって…!)

暮永さんの珍しい笑顔と共にサラッと云われた言葉に戸惑う。

(そんな事して欲しいだなんて考えた?私っ)

「考えてはいなかったけど、して欲しそうな顔していた」
「!!」

(今、読んだ?!)

もう訳が解らなくなって頭で冷静に物事が考えられない状態になっていた。

だから暮永さんから施される官能的な行為に抗う事も出来なかった。



「あぁんっ、やぁ」
「ん…凄いぞ…奥まで蠢いているじゃないか」
「そ、そんなぁ──あぁぁっ」

朝食途中だというのに私は暮永さんに誘われるままベッドの上でアクロバティックな格好をさせられていた。

「ほら、もっと脚、上げてみろ」
「やぁ…も、もう限界…ですっ」

なんでも奥まで挿入って気持ちがいい体位だからといって片足を上げさせられた。

「…なぁ、朝恵」
「はぁ…あっ…あぁっ」

グシュグシュと抜き差しされるモノの大きさに喘いでいる私に暮永さんは耳元で囁く。

「中に出してもいい?」
「!」

其の瞬間、私は我に返る。

「朝恵…」
「そ、其れは…」
「…ダメ?」
「~~~っ」

(ズ、ズルい!そんなカッコ可愛い視線と云い方してっ)

暮永さんが何を求めているか解っている私は甘い誘惑に負けそうになってしまっていた。

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夜と朝のまにまに 21話



「実は俺、インキュバスなんだ」
「………は?イン…」
「インキュバス。つまり夢魔」
「…」
「寝ている女の夢の中に理想の男や好きな男に化けて現れてセックスする悪魔だよ」
「! あ、悪魔?!」
「といっても俺は半分だけ悪魔。母親は人間でインキュバスに襲われて出来た子だから」
「悪魔と…人間の…」
「インキュバスの能力は夜から朝にかけて雄鶏の鳴き声が聞こえるまで有効で、其の間なら夢の中を行き来出来るんだ」
「……あはっ…これって、やっぱりまだ私の夢の中…ですよね?」
「は?」
「だ、だって…そんな」

(暮永さんが悪魔?って…そ、そんなの…)

「まぁ、信じろという方が無理あるけど、でも一応事実」
「…」
「俺がインキュバスとしての能力に目覚めたのは大人になってから。そうなった経緯を話すと長くなるけれど…つまり俺は俺自身の保身のためにインキュバスとしての本能を目覚めさせ、人間の女を襲う事で心の均衡を保って来た」
「じゃ…じゃあ暮永さんは…わ、私以外の女の人の夢の中に入り込んで…其の人の好きな人に化けてエ…エッチな事を──」
「した」
「!」
「別にどうしてもしたくてしている訳じゃない。ただ俺の中に半分あるインキュバスとしての血がそうさせているだけで──兎に角インキュバスとして女を襲う事が出来れば悪魔の部分としての欲は満たされるんだ」
「…そ、んな」

正直暮永さんが何を云っているのか解らない。

そもそも最初から解らない。

悪魔って…

(そんなの実在するの?!)

悪魔と人間のハーフで…

悪魔としての本能部分で女の人の夢に入り込んでエッチをするだなんて──

(そんなの…信じろっていう方が無理!)

混乱する頭を抱えながら俯いていると

「…悪いな、変な話をして」
「!」

暮永さんの声と共に頭に感じる温もり。

「信じられないよな。まぁ、信じなくてもいい」
「…」
「だけど…今まで朝恵にして来た事は謝らせてくれ」
「え」
「男慣れしていない処女のおまえなら簡単にセックス出来そうだと思ってターゲットとして選んだ」
「!」
「だけど最初目論んでいた俺の予想はことごとく破れて…イラついて酷い事をした」
「…」
「本当に悪かった──ごめん」
「…暮永さん」

私の前で頭を下げる暮永さんに今までの様な高飛車な態度はなかった。

「だけど、そんなあんたに俺は今まで感じた事がない感情を抱くようになった」
「え」
「あんたの夢に二度目に入った時…あんたの毅然とした態度が妙に俺の心をざわつかせた」
「毅然とした?」

(二回目って…暮永さんと飲み会した時の?)


『私は…私は本当に心から好きな人と…好きになった人と…心から通じた人としかしたくない!』

『だ、だから手首、折ってください!』

『先刻の…二択。どちらか選べって…私は…手首を折られる方がいいっ』


(──もしかして…あれの事?)

「普通セックスするだろう?激痛よりも快楽を選ぶだろう?なのにあんたときたら」
「あ、あれは…だって」
「こんな変な女もいるんだって気になり始めて──あっという間に心を持って行かれた」
「!」

暮永さんから伸ばされた腕が私の体をかき抱いた。

「俺の中にあるふしだらな観念が、あんたの持つ恐ろしいまでの真っ直ぐな貞操観念にブロックされて粉々になってしまった」
「…」
「俺の中に半分ある人間としての常識的な観念が…あんたが欲しいと訴えかけているんだ」
「!」

抱きしめられている体が一層ギュッと強い力で締め上げられた。

「真っ直ぐで純粋なあんたに一途に愛され求められたらどんな事になるのか…俺は確かめたくて仕方がないんだ」
「…く、れ永さん」

(淫乱な悪魔としての本能と、純粋な貞操観念を持つ人間としての本能のはざまで暮永さんは悩んでいたのだろうか?)

「なぁ、朝恵。あんたを一途に愛する事で俺の悪魔としての本能を封印してくれ」
「ふ、封印…?」
「俺を愛してくれ」
「!」
「俺が求めるまま愛し愛されて…そしていずれ俺の子を産んでくれ」
「えっ!」

暮永さんの突然の発言に頭が真っ白になるくらいに驚いた。

「愛ある行為の果てに産まれる子どもがいたら俺は…悪魔の本能に完全に勝てる気がするんだ」
「…」
「だから頼む、俺と──愛し合ってくれ!」
「~~~っ」


なんだかもう、本当によく解らない事ばかりが私を襲い、勿論正しい判断なんてこの場で出来そうになかったのだった。

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夜と朝のまにまに 20話



細く開いていたカーテンの隙間から眩しい朝陽が部屋の中に差し込んでいる。

そんないつもの朝にいつもの見慣れた風景。

──だけど

ベッドで寝ている私の視線の先にはいつもならあり得ない光景が広がっていた。

「…なんで…暮永さんが」
「…ん」
「!」

身動ぎした体と発した声で私を抱いていた暮永さんは薄っすらと目を開けた。

「…」
「…ぁ」

ジッと私を凝視する暮永さん。

其の艶っぽい表情に先ほどとは違う意味でのドキドキが止まらなかった。

「…なんで…此処にあんたが…」

凝視する事数十秒。

ようやく口を開いた暮永さんは抱き寄せていた私の体を解放しながら呟いた。

「な、なんでと云われても…此処は私の家、なので…」
「……」
「あの…多分、まだこれ私の夢の中での事で…」
「…」
「お、覚えて、いますか?夜の事…」
「………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──!」
「!」

いきなり盛大につかれた暮永さんのため息にビクッとした。

「あぁぁぁ、やっちまった!俺とした事が──!」
「…あ、あのっ」

ガシガシと頭をかく暮永さんに声を掛けるけれどしばらくは無視された。

「何やってんだ、俺は!こんな事、初めてだぞっ」
「…」
「いくら夢中になっていたとはいえ…居るか?普通!」
「…」
「くっそー失態だ!恥さらしだ!イメージぶち壊しだ!!」

(ど、どうしよう…暮永さんが壊れて行くっ)

其のあまりにもな剣幕にどう話しかけていいのか解らなくなり、ただただオロオロするばかりの私だった。


其の後数分ほど私には全く訳の解らない言葉の数々を叫び、ようやく暮永さんは鎮まった。

「…すまない、朝恵」
「! あ、あの…いえ」

明るい中で『朝恵』と呼ばれるととてもくすぐったかった。

(恥ずかしい!…でも…嬉しい)

「なんか、驚いているだろう、俺が此処に居る事に」
「えぇ…驚いています。でも…夢ですから」
「は?」
「これは私の夢の中での出来事なので…気にしないでください」
「…」
「其れに…驚きましたけど…ちょっと嬉しいなって気持ちもあって」
「…」
「あの幸せな余韻がまだ続いているんだなって思ったら私──」
「ちょっと待て!」
「っ」

不意に伸びて来た暮永さんの大きな掌が私の口を遮った。

「夢?まだこれが…夢、だと思っているのか?」
「…」

私はコクコクと首を縦に振る。

其の様子を見て暮永さんは何ともいえない表情を浮かべた。

「は、ははっ…凄っ。あんたってどれだけ能天気──っていうか純粋、っていうのか?」
「?」

暮永さんはハッと笑ってゆっくりと私の口から掌を放した。

「…夢じゃない」
「え」
「今、この時は──いや、昨日の事も…夢の中での出来事じゃない」
「…」
「全部現実の事だ」
「………ぇ」

(えぇっと…)

其れはどういう事なのだろう──と考えながら訝しんでいると

「これを見ろ」
「!!」

暮永さんが掛け布団をめった瞬間、其処にあった赤い染みが私の視界にドンッと入った。

「昨日、俺は間違いなくあんたを抱いた」
「な…っ、な、なっ…」
「初めてで…痛がったあんたから血が出た」
「~~~っ」

(嘘…嘘嘘嘘嘘嘘ぉぉぉぉ──!!)

夜のあの出来事はてっきり夢の中での事だと信じて疑わなかった。

なのに…

「ぁ、あっ…」

目の前に晒されている処女喪失の証ともいえる赤いものが、あれは夢の中での出来事じゃないのだと物語っていた。

「混乱している、よな」
「ぁ…あの…なんで…」
「…」
「あ、あれが…夢じゃないとしたら…ど、どうして…暮永さんがわ、私の家に…っ」

もう訳が解らな過ぎてまともに言葉が出てこなかった。

「今から話す」
「…」
「俺の事、ちゃんと全部話すから訊いてくれ」
「…」

混乱する頭の中にスッと静かに暮永さんの低音のいい声が流れ込んで来て、私はようやく少しだけ落ち着く事が出来たのだった。

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