Evil Dolce

* AriaLien Sub BLOG *

◆Evil Dolceは樹野花葉(キノハナハ)の過去の作品を更新しているブログです。
◆不思議要素のある恋愛物語をメインに綴っています。
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2017年12月

夜と朝のまにまに 29話



(キス、される!)

本能的にそう思った私の体は、馬鹿力よろしく高岡さんの体を強く押していた。

「っ、い、今瀬さん」
「あ、あの…わ、私…」

あまりにも突然の事にバクバクと高鳴る心臓が破裂しそうだった。

「こんな状況でズルいと思われても仕方がないと思うけれど…訊いて欲しい」
「え」
「僕は…ずっと前から今瀬さんの事が好きだった」
「?!」

(な…何…?)

「今瀬さんが入社した時からずっといいなと…多分、一目惚れだった」
「……」
「でも仕事に慣れる事に一生懸命だった君に告白なんて出来なくて…遠くから見守る事しか出来なかった」
「…」
「だけど此処数日、君が急に綺麗になった気がして僕は焦った」
「…」
「もしかして…暮永と何かあった?」
「!」

ドクンッと形容しがたい動悸がした。

(何…今、何が起こって…)

突然始まった高岡さんの告白。

切なく愁いを帯びた視線は私から逸らされる事なく、切々と其の胸の内を語っているようだ。

(嘘…嘘でしょう?!)

まさかあの高岡さんが私なんかを好きだなんて──

混乱している頭を抱えながらも高岡さんの告白は続いていた。

「暮永と飲み会の幹事になってから何となく今瀬さんの雰囲気が変わって来たなと思って…其の変化が顕著になったのがこの数日間の事だった」
「…ぁ」
「もしかして…暮永と付き合っているの?」
「!」

ズバリ云われて体が硬直した。

(私、そんなに解り易いんだろうか?!)

夜宵さんと付き合っている事を会社の人に云ってもいいのかどうか、そういった事を話していなかったなと今更気が付いた。

一応社内恋愛は禁止されていないと訊いていたけれど、私の一存で其れを認めていいのかどうかの判断がつかず、どうしたらいいのかとしどろもどろになってしまう。

「…っふ、今瀬さん、其の態度、『はい、付き合っています』って云っている様なものだよ」
「!!」

(しまったぁぁぁー私の挙動不審な態度のせいで~~!!)

あっけなくバレてしまった事に変な緊張感が走った。

「そうか…暮永と…」
「あ、あの…高岡さん」
「僕がのんびり構えていたからいけなかったんだよね」
「…え」

其れまで柔らかな表情を見せていた高岡さんの顔つきが瞬時に変わった。

「──僕、本気で君の事が好きなんだよ」
「!」

いきなりガッと手首を掴まれ、其のまま畳に押し倒されてしまった。

(なっ…!)

「僕が先に君に告白をしていたら…君は応えてくれただろうか?」
「あ、あのっ…」
「僕は暮永なんかよりもずっと君の事を愛している」
「っ!」

高岡さんの熱い吐息が私の耳と首筋にかかって妙な気持ちになる。

(や、やだぁ…なんだか体の力が…)

抵抗したい気持ちはあるのに何故か体に力が入らずいう事を利いてくれない。

「ねぇ…どうか僕と付き合って?」
「ぃ~~」
「僕はきっと君を幸せにする。身も心も…蕩かす程に愛するから」
「~~~やぁ」

甘く囁かれる甘美なひと言ひと言に体が火照り気が遠くなりそうだ。

見えない何かで体をグルグル巻きにされ、実際は触れられていないのに何故か奥深くまで冒されている様な気がしておかしくなりそうだった。

(や…やだ…やだやだやだっ)

非力な私の精一杯の抵抗は大人の男の人には敵わない。

だけど

『好きだから、俺、あんたの事、好きだから』


(…あっ)


あの日…

夜宵さんと初めて結ばれたあの夜、少しはにかみながらぶっきらぼうに私に告げた夜宵さんの言葉が色濃く脳裏に蘇った。

(夜宵さん…!)


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


バッチィィィ──ン


「っ!」

私は痺れる体に精一杯の力をかき集め、其のまま覆い被さっている高岡さんの頬を思いっきり叩いた。

其の拍子に高岡さんは私の上から退き、畳の上にドンッと尻餅をついた。

「~~痛っ」

私に叩かれた頬を撫でながら呟く様に言葉を発している高岡さんから距離を取ろうと私は思うように動かない体を引きずる様にして出入り口まで這った。

けれど

「──意外と身持ちが固いんだね」
「!」

扉に手を掛けようとした私の手は容易く高岡さんに取られてしまっていた。

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夜と朝のまにまに 28話



こじんまりとした個室に豪勢な河豚のフルコースが並べられていた。 

「す…凄いですね」
「だね。彼方さんの要望とはいえ…これをふたりでいただくなんてちょっと贅沢が過ぎたかな」

予定していた接待という名の飲み会が先方の都合で中止になり、其のまま予約をキャンセルするのもなんだという事で高岡さんとふたり、お店で食事をする事になった。

「わぁ、本当に透けている!」

目の前に置かれた大皿には河豚刺しがお花を形どった様に並べられていた。

河豚刺しの厚さはお皿の青い絵柄が解る程に薄かった。

「これこれ。さぁ、今瀬さん食べてみて」
「…はい」

初めてのものに箸を付けるドキドキ感が堪らなかった。

ちょっと贅沢だな、と思いながらも私はテレビ番組とかで観た様に河豚刺しをガーッと箸で挟み口に運んだ。

「……どう?初めての河豚」
「……ん」
「あ、ゆっくり味わっていいから」
「~~~っ、お、美味しいです!」

口いっぱいの河豚を丹念に咀嚼し其の味わいを堪能する。

「そう、よかったね」
「癖がなくて淡泊な味ですけど…歯ごたえがあるっていうか」

私は思いつく限りの感想を高岡さんに話した。

「ははっ、そんなに美味しいって感想云われたら河豚刺しになった河豚も本望だろうね」
「…」

何気なく紡がれた言葉だったけれど、高岡さんの口からそういう気持ちが出たのを訊いて何となく高岡さんらしいなと思ってしまった。

「さぁ、ジャンジャン行こうか。あ、お酒は?イケる口?」
「あ──えぇっと…少しだけ、なら」

(お酒!気を付けなくっちゃ)

ポッと頭に浮かんだのはいつだったか夜宵さんと行った居酒屋での事。

生中を4杯飲んで泥酔した事があった。

自分では結構飲める方だと思っていても意外と弱かったのだと自覚した出来事だった。

「じゃあ、どうぞ」
「あ」

高岡さんから差し出されたお猪口を受け取った。

「日本酒、大丈夫?」
「私、日本酒って飲んだ事がないんです」
「お酒も初めて?そうか、今日は今瀬さんにとって初めての事だらけだね」
「…そうですね」

話ながらお猪口に透明な液体が注がれる。

「少しだけ口をつけてごらん」
「はい」

そっとお猪口に唇をつけ、少しだけお酒を啜る。

「──どう?」
「……美味しい!」
「そう、よかった」

(うわぁ~日本酒ってこんな感じなんだ)

初めて飲んだ日本酒はとても口当たりがよくてビールとは違った透き通った飲み易さだった。

「いつもお仕事ご苦労様」
「あ、高岡さんこそ…お疲れ様です」

順番は逆になってしまったけれど、私たちはお互いの事を労って美味しい料理とお酒に舌鼓を打ちながら愉しい時間を過ごしたのだった。






(…ん、いけない)

どのくらい時間が経っただろう。

席の端に置かれた5本の徳利を見つめながら頭がぼんやりしている事に気がつく。

「大丈夫?今瀬さん」
「あ…はい」

お猪口でちびちびやっていると一体どれくらいの量の日本酒を飲んだのか解らない。

でも本能的にこれ以上のアルコール摂取は危険だと頭の中で警鐘が鳴っていた。

「お酒はもう止めようか。今瀬さん、すっごく色っぽい顔になって来ちゃたから」
「…へ?い、色っぽい?!」

突然の言葉にドキッとした。

「うん…普段は可愛いって感じの顔立ちが、今は酔っているのかな…すごく色っぽくなっている」
「~~~っ」

(か、可愛いとか…色っぽいとかっ)

そんな事云われた事も思われた事もないだろう言葉に一気に顔に熱が集まった。

「今瀬さん?」
「は、ははっ…た、高岡さんでも冗談を云うんですね」
「冗談?」
「そんな…私が可愛いとか…い、いろ、色っぽいとかだなんて」

云われ慣れていない言葉につい過剰に反応してしまう。

こういう事に慣れていない私は冗談ひとつ上手く交わせないのだなと少し陰鬱になった。

「僕、冗談なんて云わないよ」
「………ぇ」

俯いていた顔に影が陰った。

ゆっくり顔を上げると先刻までテーブルの向かい側に居た高岡さんがいつの間にか私の真横に移動していた。

「冗談なんて、云わないよ」
「っ!」

不意に高岡さんの掌が私の頬に置かれた。

「僕はね、ずっと思っていたんだよ」
「な…なっ…」
「今瀬さん…可愛いなって」
「!」

頬に置かれた掌にグッと力が入り、私の顔は高岡さんの顔間近に引き寄せられた。

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夜と朝のまにまに 27話



ごく短時間の逢引きだったけれど、夜宵さんから充分過ぎる愛情をもらって私は初めての接待に臨んだ。 


「あ、今瀬さん」
「高岡さん?!」

黒川さんから訊いていたお店の前まで行くと其処には高岡さんがいた。

「急にアシスタントを頼んじゃってごめんね?黒川さんから話、訊いたかな?」
「い、いえ…詳しい事は何も。ただ接待に行ってくれとだけ」
「はぁ、相変わらず伝達下手だな…実はいつもアシストしてくれる子が午後から急病で早退しちゃってさ。今回の接待の相手が其の…悪い言葉で云うと若い女の子が好きな人でね」
「…はぁ」
「あ、くれぐれも変な意味で好き、っていう人じゃないよ?陽気な関西人気質の人でお酒の席では若い女の子からお酌して欲しいって感じのノリの軽い人で」
「…はい」
「アシストの彼女の事が気に入っていたみたいなんだけどそういった事情で連れて来れなくて、其れで代打で今瀬さんを、という話になったんだよね」
「そうなんですか」

(若い女の子…)

高岡さんの説明を訊いて何となく納得した。

今年入社したばかりの新人に頼むにはちょっと酷な接待を入社二年目の辛うじて若い女の子の部類に入るだろう私にお鉢が回って来た──という事か。

「本当にごめんね、急な話で」
「いえ、其れはいいんですけれど…私、営業の事は何も解らなくて…」
「あぁ、其の辺の心配は要らないよ。契約成立の祝いの席だから。実際接待というよりも親睦会って言葉の方が当てはまっている気がするかな」
「そうなんですか」

其れを訊いて少しホッとした。

営業の接待って社運が掛かったような重要なものだという認識があったので、素人同然の私が何か粗相をして会社に多大な損害を与えたら大変な事になると危惧していたから。

「今瀬さんはただ関西人親父のしょーもないギャグに愛想笑いしてくれればいいから」
「愛想笑い、ですか」
「あ、勿論本気で面白かったら爆笑してくれて構わないけど」
「あはは、そうなんですね」

高岡さんの気さくな雰囲気と柔和な会話で緊張していた心が解れて行った。

(やっぱり素敵だな…高岡さん)

ほんの少し前までは憧れを抱いていた高岡さん。

優しくて爽やかで誰とでも気易く接する事の出来る彼に恋かどうかも解らない感情を持っていた。

でも

(夜宵さんを知ってからはもう…高岡さんに対してそういった気持ちはなくなったみたい)

こういった気持ちの切り替えの早さは現金なものかも知れない。

でも夜宵さんと付き合うと決めてから知った気持ちは、高岡さんに抱いていたものとは全くの別のものだったと気が付いた。


──本当の恋じゃなかった


(単に憧れていただけなんだ、私)

そう気持ちを割り切ると高岡さんに対して今までの様な挙動不審な想いは消え失せていたのだった。


RRRRRRRR

接待相手を店の前で待っていると高岡さんの携帯が鳴った。

「おっと、ちょっとごめんね」
「はい」

高岡さんは携帯を一瞥して少し表情を強張らせた。

「もしもし、社長?」

私から少し離れて出た電話に応える片岡さんの言葉に思わず(ん?)と気になってしまった。

「はぁ、はい…はい…其れは…是非とも帰らねばいけませんね」
「…」
「いえ、此方はどうともなります。また日時を改めてという形で一向にかまいませんので」
「…」
「はい、じゃあ其の様に──はい、では失礼します」

(…もしかして)

遠巻きに聞こえた断片的な会話に私はそんな予想を立てた。

通話を終え戻って来た高岡さんはバツが悪そうに私に向かい合った。

「今瀬さん、ごめんね。接待なくなった」

(やっぱり)

予想していた流れに心の奥底で少し安堵していた。

「なんか社長の娘さんが初めてハンバーグを作ったとか何とかで──あ、社長には小学5年生の娘さんがいてね、調理実習で作った料理を家でも作って社長の帰りを待っているって連絡があったみたいで」
「其れは帰らないといけませんね」
「ん…仕事熱心な社長もひとり娘には甘々だからね…仕方がないのか」
「ふふっ、いいお父さんなんですね」
「そうだね──という事で今夜の業務は終了した訳なんだけれど」

(よかった…思ったより早く帰れそう)

私は予定よりも早く夜宵さんの元に行ける事になりそうだと心が逸った。

だけれど

「まいったな…折角予約していたのに」
「…あ、お店ですか」

高岡さんが背後のお店を横目に少し残念そうにしていた。

「此処、中々予約が取れない店でね、河豚が美味しいって評判なんだよね」
「河豚…ですか」
「そう、食べた事ある?」
「いえ…ないです」
「ないんだ。じゃあ食べてみない?」
「え」
「折角の予約、無駄にするの勿体ないじゃない。どうせ会社の経費なんだし」
「でも…」
「薄~い河豚刺しの…あのダーッと一気にさらって食べるの、やりたくない?」
「…」
「ね?」
「…」
「今回を逃したら今度いつ食べられるか解らないよね」
「…」
「はぁ~勿体ない、勿体ない」
「…」

(~~~ごめんなさい!夜宵さんっ)


残念な事に今の私は河豚の誘惑に打ち勝つほどの強靭な精神力の持ち主じゃなかったみたいです──

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夜と朝のまにまに 26話



この世に生を受けて23年── 


(ふ…ふふっ…)

この度、生まれて初めて正真正銘の彼氏が出来ました!

(きゃぁぁぁ~か、彼氏、彼氏だって!)

ニヤける顔を手にした書類で隠しつつも心の中では盛大にクラッカーがパンパンと鳴っていた。

お互いの気持ちを確認し合った暮永さんと正式にお付き合いをする事になった日の午後。

朝にあった出来事を反芻しながら未だに火照る体を鎮めるために一生懸命気持ちの切り替えを計るけれど、初めての恋や彼氏といった存在はどうしても私を落ち着かせなくしていた。

(……でも)

浮かれ気分の中でもふと考えるのは暮永さんのインキュバスとしての肩書き。

悪魔と人間のハーフである彼の素性の事を考えるとほんの少しだけ不安を覚えた。

(結局…普通の人間とは違うって事なのかな)

違う──のだろう。

普通の人間は他人の寝ている部屋を自由に行き来したり出来ないし、夢と見せかけて相手にとって理想の異性の姿に変えてエッチな事なんて出来っこない。

(…今までに何人もの女の人にしたって…云ってたっけ)

不意に思い出された暮永さんの告白に少しムカッとした。

(~~~いやいやいや…其れは私と知り合う前の出来事なんだから)

過去の事なんだと何度も心に云い訊かせる。

(もうしないって云ってくれた)

これからは私だけだと云ってくれた言葉が素直に嬉しいと思った。

(…うん、大丈夫)

私に悪魔の事なんてなにひとつ解らない。

解らない事を悩んだって仕方がないのだ。

だから私はただ暮永さんのことを信じて、与えてくれる気持ちを素直に受け取ればいいのだと気持ちを新たにした。


「今瀬さん、内線2番」
「! あ、はい」

考え事をしていた頭に隣席の先輩社員の声が届いた。

(仕事中でしょ、しっかりしろ私っ)

「はい、今瀬です」

『秘書の黒川です』

「あ…」

今までほとんど皆無といってよかった秘書課の人との接触。

其れが今回暑気払いの飲み会の幹事を命じられてからほんの少しだけれど話す機会が増えていた。

『業務中にすみません。実は今瀬さんにお願いしたい事があって』

「お願いしたい事…ですか?」

黒川さんから突然お願いされた事というのが私にとっては畑違いな事じゃないかと思われる様な内容だった。




「接待?」
「…はい」

終業後、私は暮永さんと待ち合わせをしていた場所で頭を下げていた。

朝、別れ際に終業後一緒に夕食を食べに行こうという約束をしていた。

其れが私の都合でダメになったという事に対して暮永さんに頭を下げていたのだ。

「なんで事務の朝恵が営業の接待に行かなきゃならないんだ」
「其れは…私もよく解らないんですけれど秘書の黒川さんから直々にお願いされて…」
「…」
「どうしても私が必要だと…云われて」
「…ふぅん」

暮永さんは私の顔をジッと見つめながら何かを考えている様だった。

(嘘は云っていません、本当になんで私なんだろうって戸惑いばかりで)

そんな事を考えている私の心を暮永さんは読んだのか否か。

「あの…暮永さ」
「解った。仕事じゃ仕方がない」
「あ…はい」
「其れってどの位で終わるの」
「さぁ…接待なんて私、出た事がなくて…皆目見当が」
「じゃあ終わったら電話して。迎えに行くから」
「え、そんな…悪いです」
「悪くない。大事な彼女を迎えに行くのは当たり前」
「!」

(だ、大事な彼女って~~~っ!)

暮永さんのストレートな言葉に胸が高鳴って仕方がない。

「いい?連絡、ちゃんとしなよ」
「は、はい…します」

赤くなっているだろう顔を見られない様にやや俯き加減で応えると急に顎が上に持ち上がった。

「!」

掠める様に触れた温もりがあっという間になくなった。

(い、今…キス?!)

目にも止まらぬ早業の行為に恥ずかしがる間もなく茫然としていると

「夜宵」
「えっ」
「俺の事、ちゃんと名前で呼んで」
「!」

突然の要求に忘れていた動悸が蘇ってくる。

「俺、彼氏なんだから。彼氏の事は名前で呼ぶ」
「あ…そ、そう…です、ね」
「…」
「えぇっと…や…や、よ」
「…」
「や…よ…」
「…」

(はぅぅぅ~モーレツに恥ずかしいけれど見逃してくれる雰囲気じゃないよね?!)

暮永さんからジッと見つめられる視線に居た堪れなくなり私は意を決して口にする。

「…やよい…さん」
「さんは要らない」
「や、そ、其処は…どうか見逃してください!」
「…」
「ね?…夜宵、さん」
「……はぁ…仕方がない。じゃあしばらくは其れで赦してあげるよ」
「…はい」

仕方がなく妥協してあげた──という暮永…もとい、夜宵さんの頬が少し赤らんでいたのは見間違えじゃないと思いたい。


初めての彼氏。

初めての名前呼び。


夜宵さんと付き合う事で今まで知らなかった色んなときめきや動悸を覚えて行く。

其れは何処か気恥ずかしかったり戸惑ったりする気持ちを私に与えるけれど…

(でもやっぱり幸せだぁ)

この上なく幸福で甘酸っぱい気持ちに酔いしれてしまう私だった。

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夜と朝のまにまに 25話



「──いきなり盛ってすまない」
「…はぁ…はぁっ」

多分時間にしたら数十分程度の短い行為。

だけど其の短い時間での行為の内容はとても濃いものだった。

私は浅く息を吐きながら肩を揺らしながら呼吸していた。

(な…なんだったの…っ、今の)

訳の解らない内に始まった行為。

後ろから挿入させられあっという間に一回イカされ、そして気が付けばいつの間にか椅子に座っていた暮永さんの上に乗せられ其のまま激しく揺さぶられまたイカされてしまった。

(あ…あ、朝から…しかも会社でこんなっ…!)

少し前の私では到底考えられない数々の行為に頭が付いて行かずしばらく茫然としてしまった。

「俺が最初に朝恵に声を掛けようと思ったのに高岡がいて、しかもあんな場面見せられて」
「…」
「俺以外の男に赤くなるあんたを見ていたら説教をしてやらないと思って。でもあんたが俺にする弁解を訊いていたら言葉にするよりも先にあんたの気持ちが俺の中に流れ込んで来て」
「…え」

暮永さんが云っている事が一瞬よく解らなかった。

だけど段々其の意味が解ると一気に顔に熱が集まった。

(そ、そうか…!暮永さんって私の気持ちが読める人だった)

彼は云っていた。

気になる相手の心が解ると。

其れは敢えて読もうと思わなければ解らない事だったけれど、何故か私の心は意図しなくても自然と流れて来てしまうのだと。

「しどろもどろな言葉よりも先にあんたの俺に対する気持ちが伝わって来て、そうしたら自然とムラムラと来て」
「…」

(そんな理由で私は朝から唐突に襲われてしまったというの?!)

其れは私が抱いていた暮永さんのイメージとはズレていた。

「買い被るな」
「え」
「今あんた、俺のイメージが違うって思っただろう」
「…また読んだんですか」
「読みたくて読んだんじゃないけどな」
「…」

なんだかもうこんな事には慣れてしまいそうだった。

勝手に心を読まれてしまう。

口に出さなくても気持ちを悟られてしまう。

其れは時と場合によってはとても厄介なものだったけれど…

「俺は欲望に忠実なんだ」
「…」
「興味のない事や物に対してはとことん無感情だが一旦興味を抱いたものには感情深くなる」
「…」
「好きになった女にはとことん俺を刻み込みたい。俺のものなんだという印を常につけておきたい」
「~~~」
「そんな俺にあんたはもう囚われてしまったんだ」
「!」

不意にグイッと腕を取られ抱きしめられた。

「俺はまだあんたに俺自身の事を話していない」
「…」
「だけど俺はもうあんたの事が片時も離したくない程に好きで…愛しているんだ」
「っ!」

そっと頬に掌を当てがわれ、分厚い前髪から覗く漆黒の瞳に見つめられた。

「俺が何者でも…愛してくれるか?」
「…ぁ」
「俺のものに…なってくれるか?」
「~~~」

ただがむしゃらに体を貪り続けた昨日。

彼は私の事を好きだと云ってくれた。

彼がインキュバスという悪魔と人間とのハーフだと知っても囁かれた愛の言葉はすんなりと私の心に入って来た。

本当の彼が何者かだなんて今だってよく解らない。

だからほんの数十分前までは確かに確証が持てなかった気持ち。


だけど今は──


「朝恵?」
「…はい」
「え」
「私も…暮永さんの事が好きです」
「!」
「あなたが何者でも…私は目の前の此処にいるあなたの事が好きで…あなたのものになりたいと思っています」
「…朝恵」


もしかしたら私のこの選択は間違っているのかも知れない。

恋愛経験が皆無の私がこのたった数日間に起きた出来事を一生のものとして捉えて、これからの人生をこの目の前の人だけに捧げるだなんて無謀な事なのかも知れない。

(逃げられない)

半分悪魔である彼に嘘や誤魔化しなんて通用しないだろう。

何かのきっかけで彼との関係から逃げ出したくなっても其れはきっと叶わないのだと思う。

だからこそ彼に対して生半可な気持ちで彼の好意を受け入れてはダメなんだ。

(解っている)

私はちゃんと解った上で彼からの告白を受け入れるのだ。


「私の全てはあなたのものです。だから──」
「…」
「だからあなたの全ても私にくださいね」
「……」

そんな私の囁きに彼はちいさく「当たり前だ」と返してくれた。

今までの彼には珍しいとても柔らかな笑顔と共にそう、返してくれたのだった。

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