利久くんと恋人同士になってから毎日は幸せで満ち溢れたものになった。

利久くんと付き合う様になった高校生時代は、他の女子たちからのやっかみや厭味攻撃なんかがあったりしたけれど、利久くんと清ちゃん、ついでにけんちゃんも加わって、そういう事から私を守ってくれたお蔭で愉しい高校生活が送れた。

私たち4人は不思議な縁で結ばれて、大学も同じところに通った。

利久くんは人を守る立場の人間になりたいと云って弁護士を目指していた。

其れを訊いたけんちゃんは「じゃあ俺は検事になる」と云って、利久くんに対して訳の解らない対抗心を燃やしていた。

清ちゃんも利久くん同様、人を病から救いたいという志から看護師を目指してた。

そんな立派な夢を抱いている大切な人たちとは対照的に、これといった夢のなかった私は少し気後れしていた。

だけど

「羽衣は羽衣のままでいい」

と、利久くんを始め、みんながそう云ってくれたお蔭で私は迷う事無く【自分だけでは叶えられない夢】を思う様になった。

そんな私はごく普通に大学で勉強をして、ごく普通の企業に就職して、利久くんよりも一足先に社会人になっていた。

社会人になってから半年が過ぎた頃、私の【自分だけでは叶えられない夢】が今、現実的になりそうな状況を迎えていた。




「羽衣」
「あ、利久くん」

私が社会人になり、利久くんが法科大学院に進学してからふたりで逢う時間は今まで以上に少なくなっていた。

この日、私が利久くんをカフェに呼び出したのも実に一週間ぶりの事だった。

「ごめんなさい、勉強が忙しいのに我儘云って」
「何云ってるの?羽衣からの誘いは僕にとって最優先事項だよ」
「…ありがとう」

いつまで経っても優しい利久くんに甘えっぱなしの私。

自立した女性になりたいと思いつつも、利久くんの「羽衣には甘えられたいんだ」という言葉につい自分自身を甘やかしてしまう私だった。

「其れで…あの、今日、呼び出したのは…」
「この間の返事、聞かせてくれるんでしょう?」
「!」


実は一週間前、私は利久くんからプロポーズされていた。

お互い進む道が違って、逢う時間が少なくなるにつれて今までする事がなかった要らぬ心配をする様になったりして、ほんの少しだけ、ふたりの間に細い溝が出来つつあった。

勿論、そんな溝でどうにかなってしまうほどに私たちの間にある絆は脆くない。

其れが解っているから今日まで気丈に私は振る舞って来れた。

だけど

「僕が限界なんだ」

そう絞り出される様に云った利久くんの言葉に私は胸を詰まらせた。

「利久くん…」
「正直羽衣をお嫁さんにするのは僕がちゃんと弁護士として収入を得られる様になってから、と決めていた」
「…」
「其れまでは多少逢う時間が少なくても、今までの様に傍に居られなくても、おかしな話、ずっと体が離れていた時に比べれば耐えられる事なんだと思っていた」
「…」
「だけど…もう限界だ」
「…利久くん」
「僕の知らない世界に身を置く君の事が気になって、かえって勉強は手に着かない。君に逢いたくて、抱きたくて、愛し合いたくて…そんな煩悩ばかりが僕を支配するんだ」
「り、りり、利久くん~~」

思いっきり恥ずかしい事を云われている──と思いつつも、利久くんの其の正直で素直な気持ちの吐露は私こそが感じていた気持ちと同じだったから嬉しく思った。

「だから羽衣、お願い…僕の傍にいて僕を支えて欲しい」
「!」
「僕のお嫁んさんになって欲しい」
「利久、くん」


一週間前と同じ様に告白された。

あの時は素直に返事が出来なかった。

利久くんの事を考えたら、こんな大事な時期に結婚していいものかどうか迷ったから。


──だけど


一週間考えて、悩んで、気持ちを解放した結果、私が出した結論はやっぱりたったひとつしかなかったのだった。


kaben
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