父が何か悩みを抱えている事が気になりつつも、私は先生が家族に挨拶に来る其の日を心待ちにしていた。


そしていよいよ先生が家に来る──という日の朝。


「──くさい」
「えっ」

夜の活動を終えて部屋に入ろうとしていた兄と廊下ですれ違った時に私はそんな事を云われた。


「梨香、おまえ、臭いぞ」
「なっ!な、なんて事云うの、お兄ちゃん!私、ちゃんと毎日お風呂に入っているよ!」
「馬鹿、そういう臭さじゃねぇ」
「…じゃ…じゃあどういう──」

私が話している間に兄はズイッと私の傍に近づいてくんっと首元に鼻を近づけた。


「おっ、お兄ちゃん?!」
「最初は気のせいかと思ったが…おまえ──男臭い」
「!」

兄の其の言葉に一気に冷や汗が噴出して来た。


「あ…あの…其の…」
「───」

妙に焦ってしまって傍から見たら絶対おかしいという私の仕草を兄は鋭い視線で凝視した。


「…きょ…今日…全部…話すから…」
「───」
「先生…先生が家に…来た時に…全部…」

なんとか其れだけを絞り出すように云って兄からの視線を避けるためにギュッと目を瞑った。


暫く続いた沈黙の後「ふんっ」と呟いただけで兄は部屋に入っていった。


「…」

静かに目を開けて兄の部屋のドアを見つめる。


(お兄ちゃんは何か気がついてるのかも知れない)


ふとそう思った。


連日の様に受けている先生からの濃厚なスキンシップが高じて私の体には先生の匂いが染み付いて来ているのかもしれない。


兄は昔から私に関する事には鋭かった。


其のちょっとした変化を敏感に感じ取っているのかも知れないと思った。


一時期はふたりで一生を共にしなければならないと思っていた相手だ。


私がどんなに拒んでもこの環境と状況からしたらいずれ私は兄と──


でも私は先生と出逢った。


人間界に住んでいた奇跡の様な同族。


其れによって私は救われた。

だけど

(じゃあお兄ちゃんはどうなるの──?)


唯一恋愛する事を赦されている私がいなくなったら兄は…?


私の気持ちを尊重して本当に厭がる事はしなかった兄。


私はこの時になってやっと己の幸せだけに浮かれている私は浅はかなんだと思い知らされたのだった。



ピンポーン


其の日の夕方、先生はにこやかに手土産を持参して家にやって来た。

「初めまして。梨香さんの担任をしています叶宗助と云います」
「まぁ、先生ようこそいらっしゃいました。さぁ、どうぞおあがりくださいな」
「はい、失礼します」

明るい室内では昼間同様、優しく温厚な先生だったために最初はとても和やかに話は進んで行った。


最初は私の学校での生活態度に関する話で盛り上がり、両親もすっかり家庭訪問ムードに浸っていた。


だけどそんな和やかな雰囲気はいきなりの停電で一変した──


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