「はーい、今日はこれでおしまーい」

叶先生の間延びした声で静寂だった教室内は一斉に騒がしくなった。


数学の補習者は私を含めて五人いた。


(私ひとりじゃなかったのはよかったけれど…)


生憎女子は私一人だった。

残りは男子が四人だ。

ある意味これはこれで充分恥かしい現実だった。


チラッと叶先生の方を見た。

名残惜しかったけれど教壇の前で後片付けをしている叶先生に声を掛けた。


「先生、今日はありがとうございました──さようなら」
「あぁ、暗くなって来ているから気をつけて帰ってください──寄り道しないようにね」
「はい」

いつもの様に長すぎる前髪と瓶底の様な眼鏡ではっきりと顔は見えないけれど、口元の湾曲で笑顔なんだなと解る。

私は薄暗くなっている外を廊下の窓越しに見ながら下駄箱に向かった。



「篠宮さーん!」
「え」

校門手前で複数の男子に呼び止められた。

其れは先刻一緒に補習を受けていた男子達だった。


「何?」
「送っていくよ」
「そうそう、暗くなっているから」
「篠宮さんみたいな美人がひとりで歩いていたら危ないって!」
「っていうか一緒に帰ろ?」

「…」

多分好意からの行動なんだろうけれど、ちょっとだけ下心が見え隠れするのはなんだろう。


「あの…気持ちは嬉しいけど、家、わりと近くだから大丈夫」

気を使ってなるべくやんわりと告げた───のだけれど


「近いなら尚更!」
「送らせてよー」
「もしよかったらお茶でも飲んでいかない?」
「補習仲間同士、慰労会しようぜ」

「…」


(どうしよう)

なんだかちょっとウザくなって来たなぁと思った瞬間、私の体に急に腕が巻きついて来た。

「! なっ」
「おまえら、俺の女に何してんだぁ」


「「「「!!」」」」


私の腰に手を回しこれでもかってくらいギュッと私を抱いている【彼】は低く云った。

これまた馬鹿みたいに背の高い迫力のある男前ぶりだった。

凄んだ表情と鋭く光った眼光で一瞬にして其の場の温度が下がった気がした。

勿論男子達はビックリしながら慌てて帰ってしまっていた。



残された私と【彼】



「…どうして此処にいるの?」
「迎えに来たに決まってんだろ」
「学校は?」
「梨香を家に送ってから行く」
「…」

はぁ…とため息をひとつついた。

「ほら、帰るぞ」
「…うん」

ギュッと握られた手は何処へも私を逃がさないための鎖の様に感じた。

「ちょ…痛いよ、力入れすぎだよ、お兄ちゃん」
「そんなに強く握ってねぇよ」
「…もう」


私は【彼】の───この兄のせいで普通の恋が出来ない
 
ううん、兄だけのせいじゃない。


私は【人間とは恋が出来ない】


そういう決まりだったのだ──


00a21
◆ランキングサイトに参加しています。
其々クリックしていただけると更新の励みになります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村