一目惚れだった。

高校の入学式の日、桜が舞い散る中で彼を初めて見た瞬間、私の心臓は鷲掴みされた。

背が高い事や、切れ長の涼やかな目元や形のいい唇──そんな姿形の造形の美しさもさる事ながら、私が目を奪われたのは彼の持つある種独特のオーラ──郷愁感だった。

勿論目に見えるものじゃない。

ただ感じただけ。

初めて逢ったのに初めてじゃない。

何処か懐かしささえ感じた甘く切ない疼きが私の心をギュッと締め上げたのだ。

残念ながら同じクラスにはなれなかったけれど、友人を通して色々な情報をもらった。

一目惚れした彼は、古城 利久(コジョウ リク)という名前で、中学時代剣道で県の大会に出場して2位になった事もある剣豪で、寡黙なイメージで近寄りがたい印象がある反面女子には人気が高いとの事。

其の他にも様々な噂や憶測で囁かれている話をひっくるめても、到底私の手の届く様な人じゃないという事が解り過ぎるほどに解って、1年生の間はただ遠くからジッと見つめるしかなかった。

だけど2年生になって古城くんと同じクラスになったのをきっかけに不遇の1年生時代とは比べ物にならない位幸せな毎日を過ごすようになって…

其れと共に古城くんに対する気持ちはどんどん膨れて溢れて来てしまって、とうとう根性なしの私が思い切って放課後の校舎裏に古城くんを呼び出し、一世一代の告白した──という訳だったのだけれど…




「う…うぅ…」
「ほれ、ティッシュ」
「ん…ぐしゅ」
「おまえ、俺の前で平気で鼻かむとか相変わらずだよなぁ」
「…何、今更」

けんちゃんが差し出したティッシュで思いっきり鼻をかむなんて今に始まった事じゃない。

私が古城くんに玉砕した現場を面白可笑しく見学していた幼馴染みのけんちゃんが慰めてやると云って私の部屋に上がり込んでから小一時間。

散々古城くんへの気持ちを泣きながら吐き出している私を、けんちゃんはお菓子をつまみながらだたジッと訊いているだけだった。

うちは父子家庭だった。

母は私が小学生の時病で他界した。

以来、証券マンの父と二人暮らし。

仕事が忙しい父は、表向きは頼もしく見える近所の幼馴染みのけんちゃんに私の面倒を見てくれる様にと頼んでいた。

つまり父から見たけんちゃんは、私の兄の様な立ち位置にいる人だった。

(兄…そんなイメージじゃないと私は思うけどね)

私にとって何者にも形容しがたいけんちゃんの存在は、恋愛というカテゴリからはもっとも遠くにいる人である事は確かだった。

「おまえさ、なんで急に古城に告ろうって思った訳?」
「…え」
いきなりけんちゃんが呟く様に云った。

「2年になってから俺も同じクラスになっておまえと古城の事黙って観察していたけどさ、この半年、古城はおまえどころかクラスの女子全員とほぼ関わりゼロって感じだし、おまえだってただのストーカーよろしくジッと古城を遠くから見ているだけでよぉ、そんな状態なのになんでおまえはいきなり告白なんて暴挙に出たんだ」
「…」
「告白なんてさ、意気地のない根性なしのおまえにしたらものすごい勇気だったんじゃないのか」
「…うん、そうだよ」
「…」

けんちゃんが疑問に思うのは当然だと思う。

ただ、同じクラスになって1年生の頃より毎日間近に古城くんを見つめられるだけで幸せだった。

古城くんの周りには女の子が沢山寄っていたけれど、どんなに可愛い子だって古城くんは見向きもしなかった。

女の子にモテている古城くんを見ていたら、彼を独り占めに出来る女の子ってどんな子なんだろう?

彼に一途に愛される幸せな女の子は誰なんだろう?

そんな事を考える様になって…

いつからか古城くんの其のたったひとりの女の子に私がなれたらいいなって図々しく思う様になった。

だけど同時に

影の薄い私がいつまでもただ黙っているだけじゃ古城くんに好きになってもらえる訳がないなと思う様になって…

夢を叶えるには私自身が勇気を出さなくっちゃ駄目なんだと思ったから…


だから──


kaben
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