季節は葉桜を過ぎ、そろそろ夏服に衣替え──という頃だった。

私の目に映る景色はちょっとだけ人とは違っていた。

(あっ!)

そんな視界に一際眩しく映るものが私の心に明るい日差しを差し込ませた。


「久住(クズミ)くーん!」

お目当ての彼を見つけて私は足早に駆けて行った。

「久住くん、おはよう」
「…」
「先刻メールで回って来たんだけど、今日担任の下川先生、休みなんだって」
「…」
「だからきっと古典は自習になるよ」
「…」

(うーん、相変わらず無口だなぁ)

いつもと変わりのない彼の様子に安心していいやら残念やら、色々複雑な気持ちが湧いて来ていた。


「おはよー由真(ユマ)」
「あっ、おはよう、みちる──って、久住くん!」

友だちのみちるに話しかけられている隙に久住くんはスタスタと先に行ってしまった。

「あぅ…失敗…」
「由真、まだ追いかけてるの?久住の事」
「だって…好きなんだもん」
「いい加減諦めた方がいいんじゃない?久住って…ちょっと特殊だし」
「特殊?」
「あ」

みちるは明らかにしまったという様な顔をして私から視線を外した。

「ねぇ、特殊ってどういう事?」
「あーごめん、何も訊かないで!つい口が滑って」
「あのねぇ、其処まで云っておいて訊かなかった事に──なんて出来ると思う?!」
「あぁー本当勘弁して!こっちまで呪われちゃうから~」
「! 呪われるって…」

なんだか物騒な事を云うなぁと思った。






「神隠し?!」
「しーっ!黙って!大声出さない!」
「ご、ごめん」

みちるの意味深発言が気になった私はどうしても知りたい、教えてくれなきゃずっとみちるに付きまとって耳元で『教えてよ』と囁くから、と脅してようやく教えてもらえる事になった。

「本当これ、マジで呪いかかっているからさ…云いたくなかったんだけど…」
「大丈夫!私が呪いからみちるを護ってあげるから!!」
「ぷっ、由真が云うと本当になんとかなりそうだから不思議だね」
「うん、まかせといて!」

ドンッと胸を叩いておどけてみる。

大好きな久住くんの事に関する事ならどんな事をしても訊きたいと思った。

「じゃあ話すね──実はこれ…久住と同中だった子ならみんな知っているんだけど、久住って中1の時に神隠しにあった事があるの」
「…神隠し」
「学校行事の山登り合宿の最中に忽然と姿を消してさ…一緒にいた男子とか先生とかすっごく探したんだけど全然見つからなくて、警察とかも動き出してそりゃもう凄い騒ぎになったの」
「…」
「でも一週間後、いなくなった場所に倒れてていたのを発見されて、怪我とかおかしな所もないっていうんでまぁ一件落着って事になったんだけど…警察が色々調べても事件か事故かも解らないままうやむやになったって感じで。でもどうしたって変でしょ?一週間も何処にいたのか、本人全然記憶がないって云うんだよ」
「記憶が?」
「うん…其れ以来久住の事を気遣って周りは腫物に触る様な態度になっちゃって…久住も何か以前とは性格とか変わっちゃったから余計にみんな戸惑っていたんだよね」
「…」
「で、時間が経つと色々ちょっかいを出してくる馬鹿な男子が出て来る訳よ。神隠しを大げさに囃し立てて、久住の事を危ない奴みたいな感じで騒いでちょっかいを出す奴が」
「酷い…」
「だけどね、そうやって久住の神隠しの件を大げさに茶化したりする男子は…次々に原因不明の事故に遭ってしまったの」
「えっ」
「車に轢かれたり、階段から転落したり、溺れたり、色々。幸い死ぬって事までにはならなかったけどね──以来久住の神隠しの話をすると呪われるって噂が立って、誰も何も云わなくなったって訳」
「…そんな」


初めて訊いた久住くんの過去。

其れはあまりにも衝撃的な話で…


(神隠し…)


其のキーワードに何故か胸がざわついてしまう私だった。

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