其の日はあの時と同じように青い空が広がるとても空気の澄んだ一日だった。 


「お…おめでとう~~!」
「ちょ…何泣いてんだよ!」
「だって…だってだってお姉ちゃん子だった十輝がぁ~け、結婚だなんてぇぇ~」
「だからってそんなに号泣するか?──ほれ、ハンカチ」
「あり、ありがと…チーン!」
「…本当、朝恵はいくつになっても変わらねぇな」
「こら!また朝恵って呼び捨て!」
「これだけは生涯直らない。もう諦めろ」
「もうっ!」


八年前、私と夜宵さんが結婚式を挙げ損ねた同じ式場で今日、弟の十輝は結婚式を挙げた。

父と同じく医療の道へと進んだ十輝のお相手は──


「お義姉さぁーん、ブーケ受け取ってぇー!」
「へっ?」

いきなり私の目の前に差し出された可愛いウェディングブーケにギョッとした。

「ちょ…真羽ちゃん、私もう結婚しているんだけど」
「いいじゃないですかーこれわたしのお手製ですよ?何処の誰に届くか解らないブーケトスよりもわたしがもらって欲しい人に直接あげたいんです」
「あ、相変わらずぶっ飛んだ考え方するのね」

高校卒業と同時に付き合い始めたという十輝の同級生だった黒幸真羽ちゃん。

初めて逢った時からなんとなく運命的なものを感じて密かに「ひょっとして」と思っていた事が現実となった。

人懐っこい性格なのか、真羽ちゃんは私の事をとても気に入ってくれてまるで本当の姉妹の様な付き合いを続けて来た。

(今日から本当の妹になったね)

「ほらほら」とブーケを押し付けて来る真羽ちゃんをどうしようかと思っていると

「おかあさん、それ、あきにちょうだい」
「え」

斜め下から伸びて来たちいさな掌に驚いた。

「ずるい!まきにちょうだいっ」
「ちょ…」
「えぇ~さきもほしいぃ~」
「あ、あなたたちねぇ」

私に纏わりついて来た娘たちに気を取られている内にいつの間にか真羽ちゃんが渡したブーケが私の手に握られていた。

「ママ、ズルい!ママもうけっこんしてるのにぃー」
「そうそう、ブーケってけっこんしていないおんなのこがもらうものなんだよ」
「だからそれはおかあさんがもらってはいけません」

「~~~っ」

(女の子が三人寄って集(タカ)ると煩いっ)

私に纏わりつく三人の娘たちは勿論私と夜宵さんの子どもだ。

長女の愛生(アキ)次女の眞生(マキ)三女の紗生(サキ)

年子で生まれた三姉妹だ。

そして三女出産から少し間が空いたけれど、現在私は四人目を妊娠中だった。

ブーケが欲しい欲しいと強請って煩い娘たちをどうしたものかと戸惑っていると

「こら、おまえたちにはまだまだ早い」
「え」

私が高く掲げていたブーケは後ろからひょいと奪われた。

「お父さん」
「「パパ」」
「夜宵さん」

私の肩を抱く様に寄り添った夜宵さんは私から奪ったブーケを真羽ちゃんに返した。

「真羽ちゃん、気持ちは嬉しいけど余計な事はしないでくれるか」

口調は柔らか、でも云っている事は大概失礼だ。

「あははっ、ごめんなさい、お義兄さん。じゃあこれ誰にもあげないでわたしの宝物にしようっと」
「最初から其のつもりだったんでしょ。あまりうちの嫁と娘たちをからかわないように」
「えっ、私、からかわれていたの?!」
「愛ですよ、愛!お義姉さんの反応、可愛いんだもん」
「…は、ははっ」

随分慣れたと思っていた不思議系美少女の真羽ちゃん。

(でもまぁ、其れくらいじゃないと十輝とは付き合えないかも)

娘たちも真羽ちゃんの事が大好きで、少し目を離すと直ぐ彼女の周りをウロチョロしていた。

「しかし…そうか。今日から十輝も一家の大黒柱になるんだな」
「は?何おっさんくさい事云ってんだよ──あぁ、実際おっさんだったか、あんた」
「まぁ年齢的にはおっさんだけど見かけは君ぐらいの年齢とさほど変わらないだろう」
「~~っ、腹立つけどまるっきり否定出来ないのがまた腹立つ!」

そう、夜宵さんは歳を重ねても出逢った頃の様に相変わらず麗しい容姿を保っていた。

(其れでも中身は少しずつ緩やかにカッコいい歳の取り方をしているなと思うけれど)

最初の頃ギクシャクして棘々しかった夜宵さんと十輝の関係も、月日が経つ毎に角の丸いものへと変化して行った。


一緒にいる年月が経てば経つ程に夜宵さんの事が愛おしくて堪らない。

其の想いは際限なく厭きもせずにずっと続いている。


「皆さーん、記念撮影致しますよー」

遠くから式場カメラマンさんの呼び声が聞こえた。

「ほらほら主役ふたりは急いだ急いだ」
「おい朝恵、押さなくても行くって──真羽、手」
「わ、十輝くん、手引っ張らなくても歩けるって」

可愛い弟と義妹の晴れ姿に後ろから何度も目を細める。

「──羨ましいか?」
「え」

不意に夜宵さんがちいさな声で私に問うた。

「結婚式。結局あれっきりちゃんとしたの挙げられていないだろう」
「ふふっ、夜宵さんまだ気にしているんですか?」
「…」
「私、全然気にしていませんよ。だってちゃんとウェディングドレス着られたし、其れに結婚の誓いだって教会で誓うだけじゃないでしょう」
「?」
「私、事ある毎に夜宵さんから誓われています。幸せにする、護る、愛し続けるって」
「…」
「結婚式でたった一度誓われるよりも、日常生活の中で何度も囁いてくれる誓いの方が嬉しいです」
「…朝恵」
「そういう訳ですので…此処でもいつもの様に誓ってくれますか?」
「あぁ、喜んで」


そうしてみんなから少し死角になっている大きな木の陰で夜宵さんは私に軽くキスをしながら云ってくれた。

「朝恵、愛している。この気持ちは生涯変わる事無く続いて行く」
「私もです。私もずっと夜宵さんの事を愛しています」


お互い見つめながらまた軽くキスを交わす。


危うく深く濃厚になる処を私たちを呼ぶ娘たちの声で我に返った。


顔を見合わせながら笑って、そして強く手を握りしめながら私たちは娘たちの元に歩んで行くのだった──






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