昔々。

其れは私が10歳頃の話。


ある夏の日、田舎にひとり住む祖父が亡くなったという事で私は両親に連れられ田舎の母の実家に帰省していた。

通夜や葬儀の準備で忙しくしていた両親に構ってもらえなかった私は田舎の風景に物珍しさを覚え散策という名の遊びに夢中になった。 

自然の少ない都会に住んでいた私にとって其処は冒険心をくすぐられるもので満ち溢れていた。


祖父の家からそう遠くない丘の上に鬱蒼と茂った森があって、其の奥深くでキラキラ光るものを見つけた。

なんの躊躇いもなく光の元へ行くと其処には小さな池があった。


「キラキラしてる」

木々の間から差し込む日差しを受けて其の池はキラキラと乱反射していた。

夏の暑さから喉が渇いていた私は其の池に近づき覗き込む。

澄んだ透明な水は鏡の様に覗き込む私を映し出していた。

思わずゴクッと喉が鳴った。

そして私は誘われるまま其の池の水を掌ですくいゴクゴクと飲み干した。

「…美味しい」

其の水はほんのりと甘くとても美味しかった。

思わず二度三度と汲み上げ心行くまで飲み干してしまった。


「──呑んだのか」
「!」

いきなり後ろから聞こえた声にビクッとした。

怖々と振り向くと其処には白い着物を着た男の人が立っていた。

「其の池の水を呑んだのか」
「…」
「呑んだのかと訊いている」
「あ…あの…ごめんなさい」

私は其の男の人の只ならぬ雰囲気に呑まれ一瞬体が硬直してしまっていた。

なんとか声を振り絞り言葉を吐いた。

「呑んだのだな」
「…呑みました」
「……」

(ど、どうしよう…呑んじゃいけない水だったのかな)

私は怒られると思い身をこれでもかという位に縮込ませた。

暫く俯いていたけれど何も云って来ない事を不思議に思い顔を上げると、私のすぐ目の前まで男の人が寄っていて屈んで向けられた其の視線は私と同じ高さになっていた。

「!」
「おまえは何処の子だ」
「あ…あっ…」
「何やらよく知った匂いがするが」
「あ、あのっ」

男の人がクンクンと私の匂いを嗅いでいる様な仕草に驚いた。

と同時にどうしてだか体の中がカァと熱くなって来たのが解った。

「──おまえ…ひょっとして野宮の子どもか?」
「の…のみや?」
「あぁ、この森を抜け丘を下った処にある茅葺屋根の家の」
「あっ、おじいちゃんの家」
「おじいちゃん?──という事は…三朗の孫か」
「さぶろう…おじいちゃんの名前」
「…」

祖父の名前を訊いた瞬間、其の男の人は何か合点がいった様な表情を浮かべ私から少し距離を取った。

「…あの」
「なるほどな、野宮の血筋か。ならば納得だ」
「…」
「何の因果か知らぬが…このタイミングでこの様な機会を得ようとは」
「…」

(何、云ってるんだろう)

男の人は呟く様にブツブツと訳の解らない言葉を云っていた。

私は早くこの場から逃げ出したい気持ちから少しずつ男の人から距離を取った。

だけど

「待て」
「!」

ジリジリと後退った私の姿を目敏く捉え、男の人は静かに云った。

「話はまだ終わっておらん」
「…」


この日私は夢を見ていたんだと思った。


だってこんな事、普通にある事じゃないと思っていたから──

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