どのくらい前かは解らないけれど、最後に私の傍にいたのは暮永さんだった。

酔い潰れて意識を失くした私が次に気が付いた時には高岡さんが居て…

(だけどこの人は絶対高岡さんじゃない!)

変な自信が私の中で大きくなっていた。


「はっ…ははっ…あぁ、おかしい」
「…あ、あの」

ようやく笑いが収まって来たのか高岡さん(?)は少しずつ真顔になって私を見つめた。

「──なんなんだよ、あんた」
「!」

そういった次の瞬間、私の上に跨っていたのは高岡さんではなく暮永さん其の人だった。

「く…くれ、なが…さん?」

其れはよく知った人だった──はず。

だけど今目の前にいるこの人は先刻まで知っていた暮永さんじゃない。

暮永さんのはずなのに暮永さんじゃない。

(ど、どういう事?!)

混乱する脳内で私は懸命に『これは夢なんだ、夢だから一瞬にして高岡さんから暮永さんに変わっても何らおかしくはないのだ!』と云い訊かせていた。

「本当…何なんだよ」
「…っ!」

シーツに押し付けられている手首がまたギリッと痛んだ。

「なんであんた如きの女に此処まで手こずらされるんだよ」
「く…暮永さん…っ、痛い」
「いっそ折ってしまうか?こんな棒みたいに細い手首なんて」
「!」

蔑む様な表情で睨まれて私はゾクッと身震いした。

(嘘…冗談…だよね?)

「おい、両手首折られるのと俺に冒されるの、どっちがいい」
「なっ!」
「選ばせてやる。どっちだ」
「な…なんで其の二択…っ」
「 どっちかヤラねぇと俺の気が収まらないからだ!」
「!!」

酷く苛ついた口調で暮永さんは私に向かって叫んだ。

「なんなんだよ、本当に!全然思い通りにならない!」
「…」
「普通好きな男からの誘いだったらつべこべ云わずに直ぐに股開くだろうがっ」
「?!」
「其れをあーだこーだと勿体ぶりやがって…何様なんだよ、あんたは!」
「~~~」

(な、なんなの?先刻から暮永さんは何を云っているの?!)

戸惑う私に散々訳の解らない暴言を吐いた暮永さんは少しトーンダウンした。

「…おい、高岡とセックスしたいんだろう?」
「は…はぁ?!」

(何を急にぃぃぃ~~?!)

「あんた、処女だろう。最初が好きな男で嬉しいだろう」
「な、何を…云って…」
「サッサと捨てちまえ、そんなカビの生えた貞操観念」
「!!」

バシッ!

「!」
「…っ」

私は思わず暮永さんの頬を叩いた。

「……叩きやがった…俺の顔を」
「い、いくら夢の中だからって云っていい事と悪い事があります!」
「…」
「す、好きで…ずっと処女だった訳じゃない!」
「…」
「訳じゃない…けど、カ、カビが生えたとかっていうのは…失礼です!」
「…」
「私は…私は本当に心から好きな人と…好きになった人と…心から通じた人としかしたくない!」
「…」
「だ、だから手首、折ってください!」
「──何」
「先刻の…二択。どちらか選べって…私は…手首を折られる方がいいっ」
「…」
「…」

悪魔の様な怖い形相で私を睨む暮永さん。


凄く…


物凄く怖いけれど何故か怯む気にはならなかった。


(だってこれ…夢の中、だもんね?)

痛覚がある夢だから手首を折られる時も相当痛いんだろうなと思ったけれど…

(其れでも私は、例え夢の中でも好きでもない人とセックスは出来ない!)

「…」
「さ…さぁ、折ってくださいっ」
「…」

ギリギリと痛む手首。

私は来る其の時に備えて目を瞑りグッと奥歯を噛みしめた。

(……くっ)


待つ。



待つ。



(………あれ?)


だけどいくら待っても壮絶な痛みは襲ってこない。


恐る恐る目を開けると…


「あ、あれ?!」

なんとベッドの上には私しかいなかった。

「へっ?!なんで、なんで…私ひとり?!」

ベッドの上は勿論、部屋の隅々を調べてみても暮永さんの姿は何処にも見えなかった。

(消えた?!なんで…)


気が張っていた体から急に力が抜けた私は戻ったベッドに倒れ込み、其のまま意識を飛ばしてしまったのだった。

yoas150
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